朝日新聞で連載された、俵万智の98の旅の記録。毎回、文章の最後には、その旅での感動や心の揺れをじっくり煮詰めたような、旅情あふれる短歌が添えられている。平易なごく普通の言葉からなる俵万智の短歌だが、三十一文字全体で見ると、特別な詩情が感じられる。それは、古風で雅やかな言葉を使うより、ずっと難しいことなのかもしれない。
「沈下橋沈下してゆくさまを見つ 今夜は川に抱かれて眠れ」
「そこにある古き良きもの 風化する時間の砦として建つ館」
「少しずつ広がる距離の寂しさを 陽気に埋める五色のテープ」
合間に挟まれる写真も魅力的。沖縄のホテルの名物朝ごはんは、二十種類近い料理が、色とりどりの可愛らしい器にちょこんちょこんと盛られていて、眺めているだけで幸せな気持ちになる。
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