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2021年05月09日17:04

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本棚385『神々の食』池澤夏樹(文春文庫)

 さとうきび、島らっきょう、紅芋、ゴーヤー、パイナップル、イラブー、グルクンー沖縄の様々な食材についてのエッセイ集。十年もの間沖縄に移住していた作家池澤夏樹の文章は、食材を通して、沖縄の人たち、沖縄の豊饒な文化を捉えていて、単なるグルメ本とは一線を画している。
 抜けるような沖縄の夏空の中、道沿いで青と白の大きなパラソルの下でアイスクリンを売る少女、クニブーという柑橘類と白砂糖と水だけで「きっぱん」という上品で芳しいお菓子を五日がかりでつくり出すオバア。どの話にも魅力的なウチナーンチュが登場する。
 沖縄の地でとれる食材に、余分な物は加えずに、手間暇をかけて、誠意を込めることで、素晴らしい美味を生み出す様はまるで魔法のよう。内地では失われつつある、ゆったりとした、真に人間らしい世界が沖縄には残っている。いつかまた訪れたい場所のひとつである。

「渡久地さんは日に四十丁しか作らない。それが体力の限界だと言う。顔見知りばかりの集落の中で、一つ一つの豆腐が食べられる場面を作り手は想像することができる。···他人の味覚的幸福のために朝四時に起きて働くことが、四十丁の豆腐を作ることが、その作り手をも幸福にする。こういう世界ではお金はさして強い動機にならない。 できた豆腐を微量の醤油だけで頂いた。口の中でやさしくくずれて、身体の中に入ってゆく。匂いが鼻を満たす。まるで大豆畑にごろりと寝て、全身にその精気を吸い込んでいるような気分になった。」
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