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2021年04月18日08:24

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本棚380『B面昭和史 1926−1945』半藤一利(平凡社ライブラリー)

 「つまり時代の風とはそういうものかもしれない。平々凡々に生きる民草の春は、桜が咲けばおのずから浮かれでる。国家の歩みがどっちに向かって踏み出そうと、同時代に生きる国民の日々というものは、ほとんど関係なしに和やかに穏やかにつづいていく。じつはそこに歴史というものの恐ろしさがあるのであるが、いつの時代であっても気づいたときは遅すぎる。こんなはずではなかった、とほとんどの人びとは後悔するのであるが、それはいつであっても結果が出てしまってからである。」

 1933年3月末、日本は国際連盟を脱退し世界的な孤立を深めるが、翌月の読売新聞の記事は、花見客であふれかえる上野と飛鳥山の様子を描いている。
 本書は、政治、経済、外交、軍事といった「A面」の歴史ではなく、人びとの日々の生活にあった話、いわば「B面」の歴史に焦点を当てて、終戦に至るまでの昭和史を語る。

 戦争へと向かう時流の変化は、急激な奔流のようにやってくるのではなく、静かにひたひたと人びとを押し流す。小津安二郎の映画「大学は出たけれど」が流行語になるように、世界恐慌のあおりによる不景気と先行きへの不安から、現状打破を求める機運が次第に高まりを見せる。新聞も、必ずしも軍部に抑圧された被害者ではなく、不況で部数が減る中、日露戦争での部数増の記憶から、少しずつ論調が強硬になっていく。
 一つ一つのエピソードは具体的で、当時の人びとの暮らし、社会の雰囲気を追体験できる。例えば、国民の個人の生活にまで干渉する法令や通告が次第に拡大し、白米食の禁止に寿司屋のおやじ連が猛反対したり、スタルヒン投手の名前が須田博に改めさせられたりする。
 他方で、吉川英治原作の『宮本武蔵』のラジオでの朗読の時間を誰もが心待ちにして聞きほれたといった、戦時下の数少ない日常の楽しみも描かれる。生活が逼迫し、「ぜいたくは敵だ」のスローガンが街中に広まる中、「ぜいたくは素敵だ」と看板に一文字書き加えたユーモラスな反抗等からも当時の市民の思いが感じられる。

 東京大空襲で九死に一生を得た著者は、無辜の人が無残に殺される、非人間的な戦争の悲惨さ、残酷さ、そして空しさについて語る。戦争はいつだって「自衛のためのやむにやまれぬ戦争」になるに決まっているという指摘は重い。
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