学術書というと難解なイメージがあるけれど、大学出版会に勤め、自身の専門外の専門書も数多く読んできた目利きの著者は、学術書の魅力を伝えてくれる。
学術書のような噛みごたえがある難しい本と違って、「わかりやすい」本は、学問的な精密さや深さに欠け、知的刺激に乏しいことが多い。そして、学術書も丁寧に議論を追い、用語の意味を調べていけば、専門外の読者にとっても、絶対的に難しいということはないと著者は説く。
様々な未知の問題が現れるなか、組織がタコツボとなる問題点、「サイロ·エフェクト」を超えて、細分化された専門の知を超えた対話が肝要になるという著者の考えには首肯できる。例えば、震災復興のあり方について、防潮堤の建設や河川改修の工事に携わるほどの知識や実務能力はなくとも、水文学や土木工学のアウトラインは理解して、それについて関係する様々な立場の人々と議論できる知が例示されるが、少数の専門家に限られない開かれた議論と合意形成の重要性はコロナ禍の今、ますます高まっているのではないだろうか。
柔軟で多様な視点を持つゼネラリストと、その道に通じる深い知見を持つスペシャリスト。それぞれが排他的で独立した世界を築くのではなく、お互いが敬意を払い合うことの大切さ。それは必ずしも学術の世界だけでなく、企業や役所などあらゆる組織に当てはまるのではないだろうか。
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