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2021年03月30日12:56

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本棚377『一歩の距離』城山三郎(角川書店)

 終戦間際に海軍に入った著者の実体験がどこまで反映されているかは分からないが、海軍での過酷で理不尽な生活がリアルに描かれる。
 上官は部下全員を一人で殴ると手を痛めてしまうので、彼らを二人一組にして良しというまで往復ビンタをさせる。また、飛行訓練では飛行機のバランスを取らせるために、練習性を翼に登らせて「生きた錘」とする。
 このような非人間的な日々の先に、特攻の志願を募る時がやって来る。目を閉じて、志願する者は一歩前に出るようにと上官が言った後の、無限のように永い時間。他の者が前に進み出る靴の音、心の中の葛藤、「一歩の距離」を踏み出したものとそうでない者それぞれの想い。年端も行かない若人達の純粋な心が、時代や組織によって翻弄される様は哀切極まりない。

 国破れて山河ありー組織や人の醜さも悲しさも超えて、自然だけはそのままの美しさで佇んでいる。
「小手川の気弱そうな母親は、いまごろどうしているのだろう。おだやかな秋の朝、人生のただ一つの頼りである息子のことを思いながら、洗濯物でも干しているかも知れない。間もなく電報配達夫が、その戸を叩きに行くであろう。···顔を上げると、叡山山腹の紅葉が真盛りであった。朝日を受け、それは緋の色に光り、あるところでは炎のように燃え立っていた。」
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