アメリカのニューハンプシャー州の小さな町。普通の人たちの日々の暮らし、とりとめのない会話。読み手それぞれの「わが町」を重ね合わせることができる。こうした第一幕の「日常生活」に始まり、ジョージとエミリーの結婚式の一日を描く第ニ幕の「恋愛と結婚」、お産で亡くなったエミリーが、過去に死んだ町の住民たちと墓場で会話をする第三幕の「死」で終わる。
亡くなったエミリーが、再び生の世界に、自身の12歳の誕生日の日に一日だけ戻る場面の、ほとばしるような想いに心が動かされた。
「もうひと目だけ。さよなら、世のなかよ、さようなら。グローヴァーズ·コーナーズもさようなら···ママもパパも、さようなら。時計の音も···ママのヒマワリも。それからお料理もコーヒーも。アイロンのかけたてのドレスも。あったかいお風呂も···夜眠って朝起きることも。ああ、この地上の世界って、あんまりすばらしすぎて、だれからも理解してもらえないのね。···人生というものを理解できる人間はいるんでしょうかーその一刻一刻を生きているそのときに？」
著者は序文の中でこの作品を「わたしたちの日常生活の一番小さな出来事にさえ、測り知れない価値があることを理解しようとする試み」と述べているように、存在すること、在ることの恵み、喜びが本書には通底している。太古からの地球の遥かな時間、何千万年という時間をかけて地球に届く星の光といった遠大な視点が本書では度々現れるが、そうした視点から自分を見つめることで、今の生の煌めきに気づくことができるのだろう。この小さな戯曲が包含する世界の広さは限りない。
エミリーの葬列に参加したソームズ夫人の「人生ってまったくひどいものねーそのくせ、すばらしかったわ。」という台詞に、ワイルダーの想いのすべてが詰まっているように思えた。
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