「ポッカリ月が出ましたら、舟を浮べて出掛けませう。波はヒタヒタ打つでせう、風も少しはあるでせう。」
どこか夢幻の世界に誘われるような中原中也の詩の調べをはじめ、声に出すとその魅力が倍加する作品が取り上げられている。七五調のリズミカルなもの、言葉遊びが楽しいもの、方言の温もりが感じられるもの、どの詩も黙読が主となる以前の、原初の詩歌の純粋さと力強さを帯びている。伊東静雄の詩「水中花」のように、散文と詩のあわいのような、端正な日本語で書かれた詩も印象的だった。
それぞれの詩に寄せられた解説は、単なる詩の内容の説明ではなく、その詩の本質を射抜くような鋭さがある。「心のたかまり」、心の内奥からほとばしる想いは、年齢とは関わりがない。世界への驚きを忘れず、自分の心の揺れに敏感でいること、それができれば人はみな詩人であるのかもしれない。
「詩は青春の文学とはよく言われる言葉ですが、そう言いきることができるでしょうか。詩が日常を離れた心のたかまりから生まれるものだとしたら、老いにも病いにもそのようなたかまりはあり得るのではないかと思います。」
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