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2021年01月27日21:54

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本棚360『カヴァレリーア・ルスティカーナ 他十一篇』ヴェルガ(岩波文庫)

 甘い哀愁を帯びた透き通った旋律で有名なオペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ」が「田舎流騎士道」という意味だとは知らなかった。そのタイトルの通り、著者ヴェルガの故郷であるイタリア、シチリアの貧しい村を舞台に決闘と悲劇がもたらされる。
 どの話も、イタリア南部の陽光溢れる華やかなイメージとは異なり、小作農や鉱夫、羊飼いなどの厳しく過酷な暮らしが、余分なものを削ぎ落とした簡潔な文体で描かれる。ヴェルガはシチリアの裕福な地主家庭の生まれだったが、告発でも糾弾でも同情でもなく、ヴェリズモ(真実主義)の旗手らしく遥けき視点から綴られている。その言葉は簡潔であるが故に、心に鋭く飛び込んでくる。

「瞳は黒く、大きく、流れるような青さのうちを泳いでいた。人間社会の階段のいちばん下にうずくまったあの哀れな娘のことを、その瞳ゆえに、女王でさえ羨んだであろう。」

 深き坑道の地下に消えた者、財産を集めることに取り憑かれていく者、農民の反乱と挫折ーこれでもかというほど不幸な結末の話が数多く示されるが、栗林の梢をさやがせる爽やかな一陣の海風や音もなく迫ってくる美しい四月の宵闇のように、シチリアの自然はどこまでも雄大で、物言わず人びとを包み込みこんでいる。
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