宮本武蔵は江戸にいた。吉原の遊廓を創始した庄司甚右衛門と昵懇の仲になった武蔵は、いつものように揚屋で酒を酌み交わしていた。
その席で同席していた吉野大夫から、打ち明け話をされる。ある若い旗本から身請けをしたいと持ち掛けられたのだという。
しかし旗本には若い妻がいて、大夫を身請けするとなると離婚するか愛人として囲うしかない。大夫は愛想尽かしをすることによって、旗本と縁を切ろうとした。
だが諦めきれない旗本がなお執心すると、吉野大夫はつい他に意中の人がいると嘘をついたという。その相手とはー。ー「遊女」
江戸城内で宮本武蔵のことが話題になっていた。将軍家光は非常に興味を抱き、目通りを許すことにする。場合によっては、柳生但馬守と同格の将軍家兵法指南役にするつもりでいた。
その話題が城内で持ちきりになった直後だった。江戸の町内で辻斬りが発生したのは。それは奇妙な辻斬りだった。
わざわざ自分の名を名乗って、絶命寸前にまで至らしめて今際の際に被害者が告白して事切れる件が二件発生した。
辻斬りは宮本武蔵と名乗っていたという。ー「辻斬」
いわれのない汚名を着せられ、江戸を去った宮本武蔵。名古屋、大坂と縁の深い土地を静かに立ち去っていった。
その途上、悪縁ができ武蔵を師の仇と狙う三人の刺客に尾行されていることに気づき、彼らから逃れるように武蔵は先を急ぐ。
命を狙われている焦りもあり、暴風雨の時に出発した武蔵は両目を痛めるアクシデントに襲われる。
昵懇の寺に逗留した武蔵は治療に専念するが、容体は悪化するばかりだった。おり悪く彼が目を悪くしているという事態が噂となって伝播されてしまう。
三人の刺客が襲ってくるのは時間の問題だった。ー「刺客」
さまざまなしがらみから離れ、新天地小倉へと向かう武蔵に襲い掛かる者たちとの対決に迫られる五篇の物語。
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