この１〜２年の間に、そんなふうに怒っちゃったら怒った方が負けだよ、と思う案件が２件あった。
その１。
ある歌集の批評会。パネリスト３名のうち３人目が相当に辛口の評を述べた。
それに対してその歌集の作者が怒ったのだった（その場ではなく、後日のお便りにて、であるが）。褒めてもらえると思っていたところ意外なことになった、ということなのかも知れない。だがその評者を呼んだのはあなただろう、と言いたくなった。
こういう時に怒るのは、ひたすらに自分が可愛い者なのだ。こんなに大切にしている自分を斬ってくるとは…とて怒りによって自己を防衛するのだ。斯くて、批判を受けてさらに成長するという機会は失われる。
その２。
ある研究会。レポーターの論旨に対してあまたの批判が出された。
それに対してレポーターは、小賢しいことを言い募るやつらだ、という具合に怒ってしまったらしい。その時点で、批判を受けて反省するという方位のベクトルは消える。小さな自己を護るということだけが達成されて、あとは荒涼としたままだ。
僕のこれまでの経験によれば、おおよそ論争なるものは先に怒ってしまった方が負けである。怒りの感情を噴出させることによって、わたくしはこれ以上まっとうな議論をする気はありません、と表明してしまうからだ。
かつての松村正直と佐佐木幸綱の論争も、最初から佐佐木が怒りまくってしまったのだから、文句なしに佐佐木の負けである。佐佐木さん、大人として恥ずかしくないか、と言いたくなった。
僕の書いたものについても、時折り批判あるいは非難をいただくことがある。まっとうな批判なら喜んで応答する。初めから怒ってしまっているひとへは応答しない。勝負はもうついているからである。
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