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2018年05月31日02:54

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松本清張と小林泰三

日が変わったので、もう一本書いていきます。忘れないうちに読書日記。

・虚線の下絵(79)作:松本清張
清張の現代小説は読みつくしたと思ってたが、まだあった。この人、いったいどれだけエネルギッシュなんだよ。四篇収録の短編集だ。岩井志麻子の的を射た解説つきで、充実した一冊だった。
『与えられた生』は癌の手術をした二線級画家が主人公だ。市井の小人物を書かせては天下一品である。表題作も画家が主人公で、後妻にセールスを依頼している似顔絵かきだ。
二人とも分不相応な欲望やプライドゆえに危地に陥る。
『通過する客』は、アルバイトで英語ガイドをやっている主婦の話。清張作品で女性視点はかなりレアである。白人が重要な役を演じるのも珍しい。題材が新鮮な上、得意の人間スケッチが高度に冴えわたる傑作。最も好きな一篇だ。
『首相官邸』は、2.26事件に新米軍医が巻き込まれる。これも斬新な趣向だが、テーマの大きさに対して短すぎるので、尻切れトンボな印象だ。

江戸川乱歩や内外のSFに心酔していたころ、「ありがちな人物をありそうに描く」清張を馬鹿にしていた。とんでもない間違いだった。私は絵描きで生計を立てたこともなければ、外人のガイドをやったこともない。でも痛いほど気持ちがわかるし、親近感が湧く。「似た経験があるので、親しみやすい」などという低レベルな話ではない。不特定多数の読者に「いかにもありそう」と思わせるのは、凄い力量ではないか。今後も入手できる限り清張作品を追求しよう。★★★★

・クララ殺し(16)作:小林泰三
車椅子に乗った美少女が登場するが、ハイジの友達ではない。「くるみ割り人形」のクララである。蜥蜴のビルが不思議の国とは別の異世界「ホフマン世界」に迷い込む。
異世界の人物と地球人がリンクしている趣向は、前作と同じ。プロットや論理展開も似すぎている。こんな飛び道具は一作だけで充分なのでは。
アリスと違って人物になじみがないので、読み辛かった。いちおう意外性はあるので、ミステリとしてギリギリ及第点かなあ。★★★
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