・BEASTARS(五巻まで)作:板垣巴留
けものブームにあやかった便乗作と思って、書店で見かけてもスルーしていた。秋田書店なので、「ひょっとして侮れないかも」と二冊だけ試し読みした。翌日、開店を待ちかねて残り全部買って一気読み。侮れないどころではなかった。
この漫画をどう呼べばいいのか。多様な動物たちが全寮制の学校に通っている。動物の容姿はデフォルメではなく、ほぼリアルなまま。ただし背筋が伸びて二足歩行し、指先が五本に分かれている。ちゃんと文明生活を送っている。肉食獣たちは、本能を深く意識の底に押し込んで暮らしているのだ。このあたりは手塚治虫先生の名作『鳥人大系』の「赤嘴党」を思わせる。
主人公は灰色狼のレゴシだ。自分の強さと大きさに気を配る好青年だ。部活は演劇部の美術班である。スター役者でアカシカのルイは、漫画の定番「完璧で嫌味なライバル」のように登場するが、もちろんそんな薄っぺらい作品ではない。ルイにはテーマの根幹にかかわる秘密がある。序盤のクライマックスは、新歓公演だ。ベンガルトラのビルを加えた三匹の舞台は凄まじい緊迫感だった。
ヒロインはドワーフウサギのハルだ。この子がまあ何というか、少年漫画のヒロインには絶対に有り得ない性格と習慣を持っている。動物漫画でなかったら、100パーセント発禁になってるぞ。
三巻後半に登場する「裏市」は、トラウマものの衝撃である。
「好きな×を選びいや」書いた作者も天晴だが、描かせた編集者も偉い。やはり秋田は、とんがり方では小学館や講談社の一歩先を行ってるな。
本作をどう捕えるべきなのか、まだわからない。動物メルヘンでないことは確かだが、彼らに人間社会の嫌な現実を当てはめて読むべきなのか、知性を持った動物社会を描いたSFと考えるべきなのか。この世界の成立は、説明されるのだろうか。こういうものだと納得するしかないのか。今後の展開によって評価は変わってくるが、現時点で格別にユニークでハイセンスな漫画だと断言できる。漫画読みは必読。★★★★★
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