僕はこれに先立ち、ローラ・ポイトラス監督「シチズンフォー スノーデンの暴露」(2014)を見ています。ポイトラス監督のドキュメンタリーが鮮烈だったのに比べて、この劇映画の姿勢は何なんだとまず文句を言いたい。オリバー・ストーンの「スノーデン」は、事実から組み立てたフィクションだと“ことわりテロップ”が出ます。そんな金があるならローラ・ポイトラス監督「シチズンフォー スノーデンの暴露」を無料上映したらどうだ。その方がもっと有意義な結果が得られる。
とりあえずこの劇映画は、ローラ・ポイトラス監督(メリッサ・レオ)が「シチズンフォー スノーデンの暴露」を撮影するところから始まります。スノーデン(ジョセフ・ゴードン・レビット)は香港にいて、ローラや記者たちにデータを手渡し、インタビューに応える。やはり最初の30分程度は緊迫感があり、見てしまいました。
しかし物語が恋人とのやりとり中心になって来ると、スノーデンが感じた危機感より男女の関係の危機感が前面に出てしまう。それが“娯楽映画”だというのなら、スノーデンを題材に取り上げずにもっと楽しい恋愛劇を作りなさい。自分が置かれた立場と、自分が考える正義との間で悩み抜き、しかし正義のために行動したスノーデンを描きたいのなら、その正義感を優先した決意に肉薄するべきです。
ローラ・ポイトラス監督のドキュメンタリー「シチズンフォー スノーデンの暴露」でカメラは、このオリバー・ストーン作品のようにガタガタ動き回りません。この制作態度の差が、映画の出来を決定してしまったと僕は考えます。ローラ・ポイトラス監督は、じっくりとスノーデンの告白をとらえていた。このオリバー・ストーン作品だと、「ブレアウィッチ・プロジェクト」のようなチャチな作意が前面に出ています。
どちらかというとオリバー・ストーンはリベラルな立場にいて、たとえば「オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史」というテレビシリーズでは、アメリカ人が語りたくない第二次大戦の事実に肉薄していたわけです。僕はこのテレビシリーズを見て、“このパチモン監督はマイケル・ムーアよりマシかも”と考えたほど。なのに今回のスノーデンに対する理解度はどうしたことか。
もちろん彼なりにスノーデンを考えてこう描いたのでしょう。それならそれで、スノーデンが正義と感じた本質をつき、そこをきちんと呈示するべきだと思うわけです。それなくして“スノーデンも人間だから、恋人との愛に悩んだ”という、夕刊フジや日刊ゲンダイですら取り上げない、まさに地上波のワイドショー以下の視点でスノーデンを描くとは!
やはりパチモン監督は、パチモンのドラマを作り続けるしかないのでしょうか。そんな映画で金儲けしようというのは、世の中を甘く見ている。そんな甘い考えで、現在のポピュリズムが蔓延する世界を、糾弾できるはずがありません。そんなことすら分からないのかと、僕には残念無念な映画でした。
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