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2016年05月11日07:27

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「ばらば ら」

4月30日の「日々のクオリア」で、佐藤弓生さんが《ひとひらの雲が塔からはなれゆき世界がばらば らになり始む》(香川ヒサ『ファブリカ』)について書かれている。
http://www.sunagoya.com/tanka/?p=14681

最近刊行された北村薫さんの『うた合わせ』(新潮社)で言われていることを紹介するかたちの文章だ。読んでいて、「ああ、そうだったのかあ!」と思ったのは、この歌の「ばらば ら」について、《一字空白により、キリストと同時に磔刑になるはずだった人物「バラバ」が出現する》と北村さんが言われている、というくだりであった。

僕は今まで、この一字アケは、単に「ばらばら」感を文字上でも出そうとしてアケたのだろう、と思っていた。なるほど、香川さんなら、ここに「バラバ」を忍び込ませるぐらいのことは、いかにもやりそうだ。

バッハの「マタイ受難曲」で、ピラトが、「お前たちはどちらを釈放してほしいか。バラバか、イエスか」と問うと、群衆が口を揃えて「バラバ!」と叫ぶくだりは印象的である。あのバラバを忍び込ませて「世界がばらば らになり始む」と言えば、そこには単なる「ばらばら」感ではない思索が感受されることになるだろう。

と、大いに感心したのちに、ふと、こんなふうにも思った。そこまでやらなくてもいいのではないか。例えば「ば ら ば ら」という表記でも良かったのではないか。香川さん、ちょっと器用に細工をしすぎて、かえって歌としての格のようなものをおとしめてしまったのではないだろうか。

と思いつつ、いや、しかし「ばらば ら」に籠められた思索、あるいは嘆きは捨てられないのではないか、ともまた思い返す。

斯くて僕の感想もばらば らになり始めるのでありました。


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