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2015年05月27日05:47

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映画『イニシエーション・ラブ』作品レビュー

★★★★★
 ラスト5分で完全に物語のトリックに欺されていたことが分かって、ギャフンと唖然呆然。完全ノックアウトされた作品になりました。
 というのも、主役のタックンは、原作の恋愛下手の大学生と歯科助手の出会いを描く「Side-A」の冒頭のシーンでは、松田翔太が演じてなく別の小太りな三枚目の俳優(シークレット・キャストに付けられるアラン・スミシーをもじった「亜蘭澄司」という謎の俳優)が演じていて、ヒロインとの恋の進展が進む中で、ダイエットを決意。
 見事スリムになって「Side-B」として颯爽と登場したのが、本来の主演である松田翔太に変わっていたのには驚かせられました。
 恋愛映画で、いくらダイエットに成功したからといって、主役がチェンジするなんてあり得ないでしょう。しかも、原作の「Side-B」にあたる展開はというと、遠距離恋愛から来るすれ違いと二股。よくあるメロドラマで、新鮮味もなく、見ていてフラストレーションを募られるばかりでした。
 イニシエーション・ラブというタイトルの意味は、恋愛の通過儀礼という意味だそうだから、ダイエットで格好良くなった主人公が、就職で都会に出て、職場で新たな恋人を三いだし、大人へと巣立っていくストーリーなのかなぁと思っていたのです。そして、捨てられてしまう、静岡に残されたヒロインは、可哀想だな。なにもあんな美人で可愛い子を粗末に扱うのは、もったいないとも感じたのです。
 ところがラスト5分で、このメロドラマの筋書きの流れ、そしてタイトルに込められた意味あいが大ドンデン返しされるのです。
 このドンデン返しがいかに凄いかというと、今まで映像化不可能とすら言われてきた原作たったのに、堤幸彦監督は、こともなげに「Side-A」と「Side-B」を滑らかにつないでしまいました。
 まさに恋愛サスペンスといっていいトリックと謎解きの展開でした。トリックのヒントは、日付。ずっと画面の隅っこには日付が大きく表示されていて、うざったいなと思っていたら、これが見終わってから、大きな意味を持っていたんだなと気がつかされ、もういっぺん、時系列を辿りながら、最初から見てみたくなりました。
 こういうドンデン返しの名作としては内田けんじ監督の『アフタースクール』が有名ですが、内田監督作品以上の衝撃的ラストでしたね。
 出演者では、前田敦子が実に可愛いヒロイン役を演じています。でも単に可愛いだけでないところが、女優として進化したところでしょう。
 また堤監督の演出も、従来のサクサクとした早めのカット割りでスピーディーに進める作風から、じっくりと登場人物の内面を描きだそうとしている変化を感じました。『TRICK』などで見せてきた不条理な笑いを排して、真摯に原作に向き合っている撮り方は、『くちづけ』『悼む人』から取り組みだした、ヒューマン映画への監督自身の原点回帰に沿った路線にあるのだろうと思われます。

 本作は、バブルが弾ける前の70年代〜80年代の懐かしいJポップスを多数サントラに使用。当時の風俗とともに、監督と同年代の中高年の観客を、青春時代へタイムスリップさせてくれます。当時を知っている人なら、思わずあの時は!と、若き頃のよき想い出に浸って、作品の世界に感情移入してしまうことでしょう。

●Introduction
 ベストセラーを記録した乾くるみの小説を実写化した、異色のラブストーリー。恋愛下手の大学生と歯科助手の出会いを描く「Side-A」、遠距離恋愛を経て彼らの関係が終わるさまを追う「Side-B」の2部構成でつづられる。監督は、『20世紀少年』シリーズなどの堤幸彦。主人公の男女を、『ライアーゲーム』シリーズなどの松田翔太と『もらとりあむタマ子』などの前田敦子が快演。ラスト5分でラブロマンスからミステリーに転じる作風に意表を突かれる。

 バブル真っただ中の、1980年代後半の静岡。友人から合コンに誘われ、乗り気ではなかったが参加することにした大学生の鈴木(松田翔太)は、そこで歯科助手として働くマユ(前田敦子)と出会う。華やかな彼女にふさわしい男になろうと、髪型や服装に気を使って鈴木は自分を磨く。二人で過ごす毎日を送ってきた鈴木だったが、就職して東京本社への転勤が決まってしまう。週末に東京と静岡を往復する遠距離恋愛を続けるが、同じ職場の美弥子(木村文乃)と出会い、心がぐらつくようになる。
[日本公開:2015年5月23日]

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