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2015年02月14日20:40

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Kansas

素晴らしいジャケットというのは眺めているだけで音が聴こえてくるものである。
ジャケットも表現媒体と考えていたロックのアルバムには名ジャケットと言われるものも数多い。
たとえば、大口を開けた歪んだ男の顔から聞こえてくるのはキング・クリムゾンの革新的なサウンドと象徴的な歌詞だし、見返り美人のポーズを取った牛から聞こえてくるのはピンク・フロイドの壮麗な組曲だし、生首でクリケットをする少女から聞こえてくるのはジェネシスの引きずるようなロマンティシズムである。
ほかにも挙げていったらキリがない。

私このジャケットが大好きである。
カンサス(Kansas)の5枚目のアルバム『Point Of Know Return(暗黒への曳航)』(1977年)である。
遠い昔、まだ地球が球体であるとわかっていなかった頃、海の果てはどうなっているのかと旅立っていった冒険者たち。しかし、彼らが帰ることはなかった。はたして彼らは世界の果てに何を見たのか。
そんなストーリーを思わせるジャケットである。
パッケージされた音も「プログレッシヴ・ロックに対するアメリカからの挑戦」とも言うべき素晴らしいものである。

カンサスというバンドは、変拍子あり、劇的な曲展開あり、長尺曲あり、高度な演奏技術あり、泣きの美旋律あり、といった本場UKのお株を奪うような本格的プログレ・サウンドをアメリカ的なサラッとした質感で料理するという個性的なバンドだった。
アメリカン・プログレというと、ジャーニーやTOTOやボストンあたりまで含まれるのだが、これらが「プログレっぽいアメリカン・ロック」なのに対し、カンサスは「アメリカにおけるプログレ」であるところが大きく違うし、そこがカンサスのアイデンティティーでもあったわけだ。
ヴァイオリンを含み、ときにツイン・ギター、ときにツイン・キーボードという編成も独特のものだった。

このアルバム『Point Of Know Return』は長尺曲を得意とした彼らがコンパクトにまとめた10曲で構成されている。
プログレのエッセンスを散りばめ、ポップ化とは異なる方向性を持った楽曲たちは、やはりプログレッシヴとしか言いようがなく、そのくせ短くまとめ上げたというあたり、ひとつの究極の形といえるのではないかと思う。
全曲通して組曲のように感じられる趣もあり、この頃のカンサスがいかに充実していたかを物語る名作と言えるだろう。カンサス・ミュージックはここで完成形に至ったということなのだと思う。
今でもCM等に使われることもある、アコースティック美メロ・バラード『Dust In The Wind(全ては風の中に)』の存在も効果的だ。

プログレとして語られることは少なく、むしろ産業ロック一派として捉えられている感が強い。それは大きな誤りだと思う。もっとも、プログレとは認めない、などと言っているのは一部のプログレ・オタクであって、聴く方にとってはプログレだろうが何だろうがどうでもいいことなのである。
オタクやマニアにはどうしてこうも狭量な人が多いのか…。

ざっと黄金期=オリジナルのメンバーを紹介しておくと、、、
スティーヴ・ウォルシュ:ヴォーカル、キーボード
ロビー・スタインハート:ヴァイオリン、ヴォーカル
ケリー・リヴグレン:ギター、キーボード
リッチ・ウィリアムス:ギター
デイヴ・ホープ:ベース
フィル・イハート:ドラムス

ついでだから、解散までの作品をジャケットともに紹介してしまおう。

1stアルバム『Kansas』(1973年)
まだこなれていない感はあるが、自分たちのやりたい音楽というものは明確に現れている。すでに劇的な長尺曲もあるが、全体としてはやや散漫な印象を受ける。ただ、デビュー盤としては上々の出来ではなかろうか。
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2ndアルバム『Song For America』(1974年)
このジャケットも素敵だ。プログレ風長尺曲3曲と、サザン・ロック風の3曲という構成。1stからの進歩が著しい。これを代表作とするのもありだと思う。後の傑作が奇跡でなかったことを証明する1枚だ。
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3rdアルバム『Masque(仮面劇)』(1975年)
過渡期だったのかやや散漫な印象。それでも核となるプログレ系の曲はさらに磨きがかかっていて完成度が高い。収録時間の関係か、中途半端に終わってしまったような印象の曲があるのが惜しい。ジャケットにはアルチンボルドの絵画を採用。
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4thアルバム『Leftoverture(永遠の序曲)』(1976年)
ブレークのきっかけとなったヒット曲『伝承』を含む出世作。これを最高傑作に挙げる人が多いことと思う。カンサスを最初に聴くならこれがいいかもしれない。ヴァイオリンが少々引っ込んだミックスになっているのが残念。ジャケットはいかにもプログレ的?
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5thは先に触れているので飛ばす。
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次はキャリアを総括したライヴアルバム『Two For The Show(偉大なる聴衆へ)』(1978年)
これまでのアルバムからまんべんなく選曲されたベスト盤的なライヴ。驚くべきはスタジオでの修正を全く行なっていないこと。凄まじい演奏能力である。ロック界の名ライヴ盤の中でもトップクラスの名盤だと断言する。最初からライヴを前提に曲が作られていることを改めて感じた。ジャケットはノーマン・ロックウェルのパロディか?
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6thアルバム『Monolith(モノリスの謎)』(1979年)
時流を眺めての新機軸。それでも今になってみるとまだまだプログレ寄り。シンフォニックな面がやや後退しハード・ロック的なドライヴ感が増している。インディアンの伝説をモチーフにしたコンセプト・アルバムで、ジャケットもそれによる。
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7thアルバム『Audio-Visions』(1980年)
オリジナル・メンバーによる最終作。力の入った佳作と思うが、世評は低い。軽薄短小のあの時代、これでもまだ重かった。ケリー・リヴグレンのプログレ志向とスティーヴ・ウォルシュのロックンロール志向とが明らかになっている。それでも違和感なく共存している。ドラムの録音が冴えないのが残念だが、今こそ再評価されるべき作品と思う。ジャケットはちょっと安っぽい。
その後看板ヴォーカル兼キーボードのスティーヴ・ウォルシュの脱退が発表され、カンサスは終わったかに思えたが…。
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8thアルバム『Vinyl Confessions』(1982年)
まさかの復活。ヴォーカル兼キーボードに、後に映画『セント・エルモス・ファイアー』の音楽を担当することになるジョン・エレファンテを迎える。これがウォルシュそっくりの声でビックリしてしまう。ポップ化したとはいえ、悪くない作品だと思う。危機を乗り越えたと当時は思った。ただし、プログレ的要素がぐっと後退したぶんヴァイオリンの存在感が薄くなっている。
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9thアルバム『Drastic Measures』(1983年)
案の定ヴァイオリンのロビー・スタインハートが脱退してしまう。カンサスのアイデンティティの一角が大きく崩れたことになる。もはやジャーニーやTOTOとの区別は難しい。プログレ・ハードと割り切ればなかなか聴ける作品ではあるが、カンサスにとってヴァイオリンの存在が重要だったことを知らしめる結果になってしまった。それにしても皮肉なタイトルだ。ドラスティックな決断は裏目に出て、結局これで解散となってしまう。
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その後、再編と離散を繰り返し現在に至る。
いずれはその時期の作品ともきちんと向き合わなければならないとは思っているが、私にとってのカンサスはこの最初の解散まで。

バンドとしての評価は高くても個々の奏者に触れられることはあまりない。
スティーヴ・ウォルシュのハイトーン・ヴォイスはジャーニーのスティーヴ・ペリーに勝るとも劣らないと思う。フィル・イハートの手数の多いドラミングも素晴らしい。過小評価されすぎているドラマーである。ホントに上手いよ、このドラマーは。
彼らの場合は個々のインタープレイではなくアンサンブルで勝負するタイプなのだが、個々のスキルが高くなければこれほど緻密なアンサンブルは構築できまい。

アメリカにもプログレ・バンドはたくさんある。
しかし商業的な成功を収められたバンドはほとんどない。
なのでカンサスは稀有なバンドである。
そして後続のプログレッシヴ・メタルに大きな影響を与えることになる。
まあ、そんなことはどうでもいい。

とにかく一時代を築いたバンドなのだ。
毀誉褒貶あったとしても、いまだにその音楽は聴かれ続けている。
それだけで十分であろう。

BABYMETALがメタルかどうかなんてことがどうでもいいように、カンサスがプログレかどうかなんてこともどうでもいい。
いいか悪いかの判断基準なんて好きか嫌いかそれだけである。

まあ、この写真(2ndアルバムのジャケット裏)を見ると、プログレやる連中とは思えないよなあ。。。
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