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2015年02月04日15:41

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フォルムの実際 19世紀 モネ編4

フォルムの実際 モネ編4
 1870年を境にモネの絵画が大きく変化していく。その切っ掛けになったのが1870年7月に勃発した普仏戦争だった。当時フランスを治めていたのがナポレオン3世で、プロイセン王国とフランスが戦争を始める。プロイセン王国は先の7年戦争(1756年から1763年)を戦った相手だ。7年戦争ではプロイセンにイギリスが付いたが、普仏戦争では、プロイセンにドイツ諸国が付く。結果、フランスは敗退、ナポレオン3世は失墜、ドイツ諸国は1つにまとまってドイツ帝国が誕生する。この戦争時、モネは戦争を避けて同年9月にイギリスに出国。ロンドンで翌年の普仏戦争が終わる1871年5月まで過ごし、その後オランダへ数ヶ月の旅行を行なっている。この戦争では、モネの友人の画家が出兵し戦死している。友人の戦死にモネは強いショックを受けていたそうだ。ロンドンでは、ターナーの絵画を研究、大きな影響を受けている。ターナーはロマン派系の画家であり、モネは写実派のクールベとの親交もあって、反新古典派の色合いを鮮明にしている。1860年代は、サロンにも出品はしているが、1860年代終わり頃には落選が続いてサロン出品への意欲が無くなっていく。同じく1860年代、彫刻家のロダンが政府系の美術学校(エコール デ ボザール)への入学に臨んだが、何度挑戦しても落とされている。能力の問題ではなく、新古典派の圧力で排除された模様だ。権力を持っていた新古典派は、多くの作家に様々な圧力をかけて排除を目論んでいた。サロンの当落も意図的に行なわれた可能性が高く、非新古典派系の多くの画家達が冷や水を飲んでいる。このような行為が批判されない訳もなく、サロンへの風当りは強まっていった。ロンドンでターナーの風景画を研究してモネの絵画に変化が現れてくる。印象派を代表する画家と言われるモネだが、元々古典的な風景画から入っており、伝統的な造形を踏襲していた。ポスト印象派になると、造形の変化が見て取れるが、モネは造形に関してはあくまでも伝統継承派だ。印象派として全ての画家を一括りにするのではなく、個々の画家の特徴を良く理解する必要があるだろう。モネは、先鋭的になるかと思うと色彩を押さえた表現に戻る等、行きつ戻りつを繰り返している。これは絵画の造形を重視しているためだ。常に造形の確認作業が行なわれていたのだ。ルノアールにもこの傾向が見られ、ルノアールにも古典絵画の研究を熱心におこなう時期がある。モネは伝統的な西洋絵画の造形に従って絵画を制作している。遠近法もそうだ。風景画家のモネは遠近法を多用する。空気遠近法と言われる遠景を青味がかった色彩で描写する描法や、距離によってコントラストを変える技法を用いている。遠くの風景ではコントラストを弱く、近景になる程にコントラストを強く描いて遠近感を表現する描法だ。オーソドックスな手法だが、モネは良く使っている。遠くの風景の色は彩度を落とし、近景の彩度を高くするのも遠近法の1つだ。もちろん透視図法に従ってフォルムも描かれている。この伝統的な造形構造によってモネの絵画は安定感のある絵画になっているのだ。ただ、モネは伝統的造形はしっかり守りながらも、多彩な色彩を描く方法はないかと試行錯誤を繰り返していた。色彩を表現するには、色によるコントラスト表現が不可欠になる。彩度にしても、彩度が高ければ良い、と言うものではない。この辺りを勘違いしている人が多いのだが、彩度の低い色も絵画表現には重要なファクターとなる。重要なのは、明度、彩度、コントラストのコントロールだ。これを確認するためには、色を押さえた描写が時に必要になってくるのだ。1870年前後、モネは色を押さえた作品を沢山描いている。1860年代の前半はむしろ強い色彩で描いていたのが、1860年代後半になると色が押さえられ、明度変化やコントラスト変化が重視されるようになるのだ。遠景、中景、近景、と言うように遠近法に忠実な変化が描法の基本となっている。もう1つの特徴は、中間色の表現幅が非常に広くなっていく事だ。初期の絵画では、コントラストを強く描く場合が多かったが、色彩の色味の変化は乏しく、やや色彩が単調に見えてしまっていた。1870年代前後になると、中間色が非常に豊に表現されるようになっていく。
 左の画像は、1865年のマネの影響が見て取れる作品、全体的にコントラストが強めに描かれているのだが、色彩の鮮やかさに物足りなさが残る。全体的にやや単調な印象が否めない。中の作品は、1868年の作品、モネの作品には雪景色が大変多く、グレートーンで表現、遠景のコントラストは弱く手前が強くなるように距離によって明度が滑らかにグラデーション化されている。色彩による遠近法ではなく、明度変化とコントラスト変化による遠近法で描かれている。右の画像が、1871年、ロンドンで描かれた作品。遠景、中景、近景と、きっちりと描き分けられており、分かりやすい構造になっている。遠景を青味のかかった色で描く空気遠近法で描かれている。印象派の絵画を描こうとする場合、その前段階として、このように西洋絵画の基礎的な造形をしっかり描けるようにしておく必要があるだろう。これを疎かにすると印象派風の絵画にはならないのだ。遠近感や空間の広がりをしっかり描写する。これが重要だ。画面全ての色彩の彩度を上げるのではなく、彩度にも変化を付ける。これが、モネが導き出した方法だった。彩度の低い色彩も、彩度の高い色彩との対比で響き合うようになるのだ。この作品は、かなり分かりやすいコントラストの対比を用いているが、後のモネの絵画では、表現がより複雑になっていく。







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