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2014年12月30日13:06

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感動を商売にするなら、こういう作り方にしてほしい。ニルス・タベルニエ監督「グレート デイズ! -夢に挑んだ父と子-」(2013)。

監督のニルス・タベルニエは、「田舎の日曜日」などの監督ベルトランの息子だそうです。だからといって、障害者の青年が車いすなどに乗って、父親と一緒にトライアスロンに参加する映画と言われると、僕は“また感動を商売にしやがって”という反撥を感じたのでした。それなのになぜ見に行ったかと言うと、たまたま劇場の招待券が手に入り、有効期間中に上映する僕が見ていない作品がこれと、併映の「サンシャイン♪ 歌声の響く街」だけだったからです。

物語は、ニースを舞台にしたトライアスロンの出発場面から始まります。そして1年前にさかのぼり、父親のポール(ジッャク・ガンブラン)がリストラされた地点へ。再就職もままならず、無為な日々を送る父親に、障害者の息子ジュリアン(ファビアン・エロー)が“一緒にトライアスロンに出よう”と持ちかけます。かつてトライアスロンに出場したことのある父親は、“無理だ”と簡単に断る。しかし妻からの言葉、“働いているときはともかく、失職して時間があるのに息子と過ごさないのはどういうわけ?”に折れ、ジュリアンとの出場を決める、という展開です。

まず冒頭、ロープウェイの修理をしているポールの姿をヘリコプターショットでとらえ、ヘリコプターで帰宅するポールを迎える車椅子のジュリアンが映ります。手を振るジュリアンの期待に反し、父親は手を振って応えるものの踵を返して酒場へ。ここまでセリフは一言もなく、最初に出る字幕はポールの友人が酒場で女バーテンに語っている与太話でした。こういう、セリフではなく画面で物語る映画、すてきですね。

実はこの時点で、ジュリアンとポールの関係は明確ですが、ジュリアンの横にいた女性が若く、とてもポールの妻とは思えない。しかしポールの妻クレア(アレクサンドラ・ラミー、写真3)が出てきた場面では、どうやら現在夫婦と息子の3人暮らしらしいと分かります。じゃ、あの若い女性は? というようなことは、後々分かればいいわけです。クレアが彼女を訪ねると“あら、ママ”と応じてすんなり了解でした。

というように説明的なセリフを極力排し、画面の積み重ねでレース参加へと盛り上げていきます。最初は参加を認められなかったので、ジュリアンが大会委員会に直訴したりします。そのあたりも余計な説明がないので好ましい。そうそう、父親を説得するのに、ジュリアンの同級生たちが一役買う場面もさわやかでした。そして障害者の学校といっても、生徒によって障害の状態も違い、さまざまなのが興味深い。

あるいは、失業中のポールが大会に参加するためトレーニングするのですが、その費用はどうなっているのかや、妻のやりくり云々も描くことなく試合へと突き進みます。こういう求心力が映画として大事ですね。ジュリアンが新入りの車椅子の少女に恋心を抱くという展開も、さらりとしていて心地よい。気になった僕はフランスの失業保険制度をググってみました。すると“支給期間は、50歳未満の者は最長24か月の間、50歳以上は最長36か月まで”とありました。

ところが、レースが始まると僕はもう満腹なのでした。つまり、数か月程度の準備で参加した彼らが、上位入賞というドラマだとリアリティーがなくなり、それまでの努力が無になります。あるいは無残なリタイアという結末も、映画の主旨から言ってそぐわない。となると、16時間という制限時間ぎりぎりでゴールという展開が読めてしまいます。そしてそのとおりになる。ここんところの描き方にもう一工夫欲しかったな。

とはいえ、バカな製作陣だと安っぽく観客の涙を誘う作りにしますが、そういう部分はなかった。あるいはジャック・ガンブラン扮する父親も、強すぎず、きちんと弱点も見せています。そういう登場人物の距離感と、ドラマのリアリティーを十分計算したところがいい。なかなか出来のいい作品だと思いました。公開時に無視していて、ごめんね。
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