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2011年07月29日22:46

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プレスティッジのマイルス

このところマイルスをよく聴いている。
マイルス・デイビス、言わずと知れたジャズ界の偉大なトランペッター。いわゆる帝王マイルスである。
膨大な数のアルバムが残されているのだが、集中的に聴いているのは50年代のマイルスである。
彼の長い音楽人生の中のほんの一瞬の時期のことである。

モード・ジャズのマイルスも電化したマイルスも素晴らしいと思う。ただ、いちばん思い入れがあるのはやはり50年代のマイルスということになる。
レーベルでいえば、Prestige(プレスティッジ)時代である。
ビバップ(あるいはハード・バップ)の時代と言い換えることもできるだろうか。

この時代のマイルスを聴いていると、彼のトランペットは「歌」なんだな、と改めて思う。高音域でバリバリ吹きまくるのではなく、技巧的な素早いパッセージを披露するのでもなく、中音域を中心にした切々とした歌なのである。

この時代、いちばん充実していたのは、やはり自身のクインテットを率いていたときだろう。プレスティッジ時代後期と、移籍後のコロンビア時代初頭になる。
後に黄金のクインテットと言われるユニットは本当に素晴らしい。マイルスのトランペットに、ジョン・コルトレーン(tenor)、レッド・ガーランド(pf)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)という布陣。
フィリー・ジョーのヤクザなドラミングもいいし、チェンバースのフレキシブルなベースもいいが、なんといってもガーランドのチャーミングなピアノである。
歌もののレパートリーを増やそうとしていたマイルスにとって、歌もの得意のガーランドは絶対に必要なピアニストだったのだろう。
今聴いてもマイルスとガーランドの相性は抜群だ。『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』や『イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド』といった名演を挙げるまでもなく、切々としたミュート・トランペットときらびやかなピアノとはよく合うのだ。
そうなると、コルトレーンはやはりちょっと浮いてるなと感じなくもない。もっともその異質さ加減が様式美に陥りそうになる歯止めになっていたのかもしれない。

このクインテットの最高傑作はコロンビア移籍第1弾となった『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』だろうが、プレスティッジに残されたアルバムも決して劣るものではない。
移籍にあたって契約を満了させるため、4枚分のアルバム用の曲を2日間(実際には2日連続ではなく、数ヶ月空いている)で録音する。俗に言うマラソン・セッションである。これは1年に1枚ずつ『スティーミン』『ワーキン』『リラクシン』『クッキン』としてリリースされる。
ぶっちゃけた話、やっつけ仕事だったのだろうが、とてもそうとは思えない。それほどこのクインテットは充実していたということだろう。

『クッキン』冒頭に収録された『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』、その後何度も録音することになるこの曲の初録音である。私はこの版がいちばん好きである。ここでもキモはガーランドである。
イントロのピアノからして魅力的だ。続くマイルスのミュートの切ないこと。哀しみに溢れている。裏に絶望を秘めた哀しみである。で、そこから救い上げるのがガーランドの可憐なピアノなのである。彼のピアノは哀しさにも終わりがあることを示している。最後にマイルスのミュートが戻るが、いくぶん音色やフレーズが明るくなっているように感じる。そしてイントロの愛らしいピアノで終わる。
ドラマである。これこそジャズの最も美しい姿を示したものと言えよう。

自分にとってマイルスというと、このクインテットだな。

このクインテット以前では『バグス・グルーヴ』が好きである。ミルト・ジャクソン(vib)とセロニアス・モンク(pf)を招いたセッションと、ソニー・ロリンズ(tenor)とホレス・シルヴァー(pf)を招いたセッションの混合アルバム。中でもロリンズのオリジナル『エアジン』が良い。ここでのマイルスのソロが大好きだ。

もしかしたら、マイルスのマイルスたるものはモードや電化にあるのかもしれない。
バッパーとしてのマイルスはマイルスのほんの一部に過ぎないのだろう。それでも歌心に溢れたこの時代の愛すべきマイルスが大好きなのである。

写真は左がマイルスとモンクのケンカ・セッションとして有名な『バグス・グルーヴ』。もっとも実際にはケンカなどなかったとのこと。中央がクインテットとしてのデビュー盤。それなのに地味なジャケット…。右がマラソン・セッション4部作から『クッキン』。
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