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2010年12月27日00:03

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本棚53『足利尊氏と直義 京の夢、鎌倉の夢』峰岸純夫(吉川弘文館)

「豆を煮るに豆がらをたく」―兄弟が傷つけ合うことのたとえ(広辞苑)

 1991年のNHK大河ドラマ『太平記』では、足利尊氏が弟直義に毒を盛る場面が鮮烈だった。鎌倉幕府の打倒、南朝との対立にあたり、ともに力を合わせてきた兄弟であったが、1350年に起こった観応の擾乱で、両者は対決する。敗れた直義は尊氏と和議を結ぶがまもなく没する。ドラマでは、尊氏が勧める菓子に毒が入っていることを知りつつもそれを口に運ぶ直義と、毒に悶え苦しむ直義の声をかき消すかように幼い日の思い出を滔々と語る尊氏の姿が心に刻まれた。このような悲劇はなぜ起ったのだろうか。

 尊氏と直義の対立の要因について、著者は、将軍(軍事)と世務(内政)の矛盾を挙げている。武門の長である尊氏と内政を取り仕切る直義という分掌関係があり、それぞれの下に、武断派・高師直と文治派・上杉氏が配置された。前者は戦乱の中で得た土地を非合法に占拠しようとする一方、後者は法や道理に基づき公平に政務を執行しようとする。この両者の矛盾が、師直―直義の対立から、尊氏・師直―直義・上杉氏の対立へと発展していったのである。

 尊氏と直義はどのような思いで刃を交えたのか。尊氏による毒殺という「事実」についてさえ、本書は軍記物語『太平記』によるフィクションであると主張するなど、真偽の程は定かではない。ましてや「感情」のようなものは、跡形もなく歴史の波に溶け去ってしまっている。「愛憎とは、一番強い愛情である」という言葉を聞いたことがあるが、彼らが抱いていたのも、そのような心持だったのだろうか。今となっては知る由もない。
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