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2010年07月08日23:30

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岸辺の旅

湯本香樹実(ゆもと・かずみ)という作家をご存じだろうか。
少し前に酒井駒子の素晴らしい絵を得た『くまとやまねこ』というベストセラーになった絵本の原作者といえば、おわかりになる人も多いだろう。

彼女の新作がつい最近刊行された。
『岸辺の旅』という本だ。(文藝春秋社)
夫の失踪後、三年間ひとりで暮らしていた瑞希のもとに、ひょっこり夫が帰ってきた。しかも、夫は海の底で蟹に食われたのだという。そして、瑞希は夫とともに彼が家に辿り着くまでの道のりを遡るかのような旅に出る。
簡単に言ってしまうと、そんな話。乱暴な言い方をしてしまえば、ゴースト・ストーリーだ。

劇的な事件が起きるわけでもなく、道行きの情景が綴られる。旅先で出会う人たちとの交流、夫との心の触れ合い、そうしたことが淡々と抒情的に描かれていく。
一種のロード・ノベルと言ってもいいのかもしれない。
切なく哀しい物語だが、どこか懐かしい感じがする。たとえば、セピア色の写真やモノクロの映像を見ているかのような感覚だ。ヴィジュアル的なイメージが強いのだろう。

『くまとやまねこ』が死と再生の物語とするならば、この『岸辺の旅』は存在の再確認の物語とは言えないだろうか。
登場人物たちを見る作者の目は優しい。しかし、死に対しては容赦がない。死を覆すことはできず、後戻りさせることもできない。死は絶対的なものとしてこの世に存在する。それゆえに人とのつながりを求める。そしてそこに自己の存在を確認する。
静かではあるが、心に響く物語だ。

私はこの本を読んで、80年代初頭に作られたNHKのドラマ『四季〜ユートピアノ』を思い出した。ドラマというよりは、映像詩といった方が相応しいような、美しい作品だった。
さらに、終始「水」のイメージが付きまとうことからか、福永武彦の『廃市』が思い浮かんできた。
とはいえ、もちろんそういうこととは関係なく、寒々としているのにどことなく暖かみの感じられる風景が浮かんでくる。

旅の終わりに瑞希が得たものはなんだったのか。
切なく哀しい物語はいわく言い難い読後感を残してくれる。
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