コンプリート続行中の作家を二冊レビューします。
・月の恋人 作・道尾秀介
TVドラマ用に書き下ろされた恋愛小説なんか、通常なら金をもらっても読みたくない。でもヒイキ作家の道尾なので読んだ。
うーむ、上手い。若手社長と派遣女子社員の恋なんて、聞いただけでウンザリするようなネタがなぜこんなに面白いんだ。いつものことだが、キャラクターが自然で生き生きしてるのと、ストーリー構成が抜群に達者だからだ。
線香花火とか四つの丸など、小道具も印象に残る。もう一人のヒロインである台湾人モデルが気に入った。
女性受け小説の見本みたいです。道尾先生、器用貧乏にならなければいいですケド。←新妻エイジの口調で。★★★★
・死ねばいいのに 作・京極夏彦
京極の魅力とは何だろう。色々あるが最大のものは、「言いくるめられる快感」ではないだろうか。『姑獲鳥の夏』を読んだときの衝撃は忘れられない。主観がゆらぎ論理が捩れながらも、ちゃんと整合性のある解決へと着地させる。
ミステリでも時代小説でもないが、ひさしぶりに京極らしい小説を読ませてもらった。
自称バカでプーの20代フリーターが、殺人事件の関係者にインタビューして回る。おそろしく地味な話なのに、蟻地獄へ引き込まれるがごとき吸引力に抗しきれずあっと言う間に読んでしまった。
話しているうちに、関係者たちを縛っていた固定観念の呪縛が解けていく。この男は言霊使いだ。パラレルワールドの中禅寺といえるかもしれない。対話形式でとことん論理を突き詰めるという斬新な試みに感心した。上方落語風タイトルをつけると、『人生根問い』かな。最近ちょっと冴えなかったけど、久々のヒット。やはり見逃せない作家の一人ですね。★★★★★
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