mixiユーザー(id:2615005)

2010年06月19日23:59

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『魔笛』と『無痛』

最近読んだ初読み作家をレビューします。

・魔笛 作・野沢尚
凶悪な爆弾テロ犯人は、かつて公安警察がカルト宗教団体に送り込んだスパイだった。本作は逮捕されて死刑を待つ犯人の一人称で語られる。
こういう設定なら三人称多視点か主役刑事の一人称にしたほうが迫力が出ると思うが、なぜ過去形の犯人視点にしたのだろう。

刑事には殺人罪で服役中の妻がいる。いくらなんでも設定に凝りすぎである。犯人が恐ろしく複雑な背景を持っているのだから、捜査する側はもっとシンプルで良かった。
宗教の持つ反社会性、公安の実態、キャリアと現場など重い問題をテーマとしており、それなりに読み応えはある。ちょっと詰め込みすぎで消化不良な気もするが。
それからオウムをモデルにした宗教団体を「旧ソ連に似ている」というのは、どんなものか。社会主義の親玉は、神様を否定してたんですけど。オウムは国家(政府)のパロディだと言われるが、一番よく似てるのは戦前の日本だと思う。
不満はあるが、力量のある楽しみな作家だーーと思ったら、本作を書いた二年後に自殺しているそうだ。どこかアンバランスなのは、作者が自らの死を見つめていたせいなのか。★★★

・無痛 作・久坂部羊
マイミクメタボケンケンさんのお勧め。
神戸の住宅街で、一家四人が惨殺された。顔を見ただけで症状から予後まで読み取れる医師・為頼は、ささいなきっかけで事件に巻き込まれてしまう。
医療ミステリとはいえないが、ある疾患が重要なキーとなるミステリなので、『脳男』を思い出した。完成度はこちらのほうがずっと高い。本当の医者が書いてるだけあって、『脳男』のような噴飯物の間違いは出てこないし、描写にいちいち納得できる。

キャラ造形が上手い。特に性格の悪い二人組男女が、殴りたくなるくらいよく描けている。無保険医療チェーンを展開する白神という医師がいい。「サービスは金で買うものだ。医療だってそのひとつだ」という意見には反発する人もいるだろうが、主張自体は間違っていない。
小さなクリニックを開業する為頼とは対照的なようで、実は医師としての根っこの部分が似ているというのは皮肉である。
際立ってユニークで個性的なのは、本作のもう一人の主役なのだが、ネタバレになるので書きません。

心神喪失者の犯罪という重いテーマを扱っているのに、堅苦しさは皆無。サスペンス満点の娯楽作になっている。徐々にピースが集まって事件の全体像が見えてくるというミステリらしい魅力もある。
最後があわただしく辻褄を合わせたような印象なのが、惜しい。
★★★★
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