世界は人間にとっては、人間の二重の態度に応じて二重である。
人間の態度は、人間が語り得る根元語（Grundwort）が二つであることに応じて二重である。
この根元語とは、単一語ではなくて対偶語（Wortpaar）である。
根元語のうちのひとつは対偶語・〈我〉−〈汝〉（Ich-Du）である。
もうひとつの根元語は対偶語・〈我〉−〈それ〉（Ich-Es）であり、この場合には、〈それ〉を〈彼〉（Er）あるいは〈彼女〉（Sie）のいずれで置きかえても、その意味するところには変りがない。
このように根元語が二つあるからには、人間の〈我〉もまた二重である。
なぜなら、根元語・〈我〉−〈汝〉における〈我〉は、根元語・〈我〉−〈それ〉における〈我〉とはことなっているからである。
（マルティン・ブーバー「我と汝」＝ブーバー著作集第１巻「対話的原理�機廖‥銚�義弘訳 みすず書房 訳文中付点の語はここでは〈 〉を付けた。）
１９７２年３月、上野から金沢へ向かう特急電車の車内で、この書物を読み始めた。上記引用はその冒頭の部分。こんなふうに、箴言のように、詩のように語り出される文章である。本を読んで“真言”に出合ったと感じた経験は、後にも先にもこの時だけだった。訳書９８ページに、３８年前の金沢の喫茶店のコーヒーのしみがいまだに残っている。もし、余命何ヶ月などと宣告される日が来たら、もう一度この文章を読み返したい。
某ネット歌会で、バッハを聴くと有限の中に永遠がはらまれていることがわかる・・・というようなワケワカンナイ歌を出し、ワケワカンナイと言われ、ワケワカンナイ自解を付けた。そうだ、もともとこれはブーバーが言っていたのだった、と思って、久々にこの書物を本棚から取り出した。が、該当箇所は見当たらなかった。この著作集のシリーズではなく、別の軽装版で出ていたエッセイ集の中にあったのかも知れないが、そちらは行方不明になってしまっている。
ログインしてコメントを確認・投稿する