キング・クリムゾンの最高傑作とは言えないが、名盤であることには違いない『レッド』。
70年代クリムゾンのラスト・アルバム。
名盤ではあるが、このアルバムはどこか妙なのである。
『太陽と戦慄』からジェミー・ミューア(perc)が抜け、『暗黒の世界』からデヴィッド・クロス(vn)が抜けた。ジェネシスに先駆けてクリムゾンは「そして三人が残った」のである。
しかし、ロバート・フリップ(g)、ジョン・ウェットン(b,vo)、ビル・ブラフォード(dr)という布陣は強力で、それなりの期間活動していたらロック界最高のトリオの名声も得られていたことだろう。
この三人に何人かのゲストを招いて『レッド』は作られた。かつてのメンバーであるメル・コリンズ(sax)が招かれたのもそうだが、オリジナル・メンバーのイアン・マクドナルド(sax)の参加に注目である。なんでも彼を含めた4人での活動も予定されていたそうである。
ところがアルバムのリリースと同時にフリップにより解散宣言がされてしまうのである。それが74年のこと。つまり私がロックに目覚めた頃にはすでにクリムゾンは存在していなかったのである。
01.Red
02.Fallen Angel
03.One More Red Nightmare
04.Providence
05.Starless
ロバート・フリップ:ギター、メロトロン
ジョン・ウェットン:ベース、ヴォーカル
ビル・ブラフォード:ドラムス、パーカッション
<ゲスト>
デヴィッド・クロス:ヴァイオリン(04)
イアン・マクドナルド:アルト・サックス(03、05)
メル・コリンズ:ソプラノ・サックス(05)
ロビン・ミラー:オーボエ(02)
マーク・チャリグ:トランペット(02)
1曲目はインストゥルメンタル『Red』。
クリムゾン風メタル・ナンバーである。へヴィなリフのみで作ってしまった曲。シンプルな名曲と言える。シンプルとは言っても、クリムゾンとしては、であってところどころで変拍子が炸裂する難曲である。
何故かこの曲は録音が良くない。こもり気味でドラムの音が軽い。なので肝心のへヴィネスが十分には伝わってこないのが惜しまれる。
2曲目はバラード『Fallen Angel』。
ウェットンのジェントルなヴォーカルが冴える。ブラフォードのドラムもここではいい音で録音されている。彼のプレイはイマジネーションに溢れている。
オーボエやトランペットも加わっているが、派手な音作りにはなっていない。
リチャード・パーマー=ジェイムスによる歌詞は悪くないが、ピート・シンフィールドのような装飾性に欠け、ハードボイルドのような内容だ。
名曲。
3曲目は『One More Red Nightmare』。
疾走感のあるナンバーで、判りやすい曲である。しかし、チープに加工したハンドクラップのような音を何故ドラムにかぶせているのか全く理解できない。せっかくのスネアの音が消されてしまうし、非常に違和感のある音が耳に刺さる。やけっぱちで音をコラージュしたようにしか思えないのだ。
マクドナルドのサックスは力演。
4曲目『Providence』はインストゥルメンタル。
デヴィッド・クロス在籍時のライヴ音源。
違和感がある。メタリックな印象のアルバムの中でこれだけ雰囲気が異なる。アルバムとしての統一感をぶち壊している。演奏自体はもちろん悪いわけがない。前作『暗黒の世界』に含まれていたら全く違和感はなかったろう。クロスのヴァイオリンを聴けるのは嬉しいが…。
最後は12分あまりの大曲『Starless』。
最初は美旋律バラードの体裁を取るが、途中からインプロヴィゼーション大会になり、最後にテーマが戻って盛り上がって終わる。曲としての構成感には欠けるが、初期クリムゾンを髣髴とさせる名曲と言えるだろう。
メロトロンが活躍する曲でもある。
マクドナルドのサックスもフィーチャーされていて、バラード部分ではメロディーに寄り添うような演奏を聴かせる。後半ではコリンズのソプラノも加わる。
またこの曲には間違いなくチェロが入っているが、ノンクレジットである。
このアルバムは傑作である。
しかし、何かが妙。
フリップのギターも攻撃的で、ウェットンのベースも重く音数が多い。特筆すべきはブラフォードのドラミングで、荒々しさと繊細さが見事なバランスで共存している。ロック界広しと言えどもこのようなドラマーは他にはいない。
フリップお気に入りの一枚である。
なのに何かが妙。
4曲目に突然ライヴ音源が挿入されるのもそう、3曲目でクリムゾンらしからぬチープな音が邪魔になっているのもそう、1曲目の録音が良くないのもそう、『Starless』がどこかオリジナル・クリムゾンを思わせるのもそう、いちばんの傑作が2曲目のバラードかもしれないというのもそう。
しかしいちばん妙なのはそのわかりやすさなのだと思う。
変拍子の処理もとてもわかりやすい。
『太陽と戦慄』と『暗黒の世界』がインプロヴィゼーション重視だったのに対し、『レッド』は楽曲としてきっちり整えられているのだ。『Starless』の後半部にしても非常に判りやすい。
3枚を続けて聴くと、そこに歩みを止めたクリムゾンが見える。常に進化を遂げてきたクリムゾンが進化を止めた瞬間が『レッド』に記録されているのである。
パンクもニューウェイヴもまだ生まれていない時代、フリップはすでにクリムゾンの役割を終えたことを悟り、新しい音楽の胎動を予感していたのだろう。
ウェットンとブラフォードを喜ばせたマクドナルドの参加だが、彼はめいっぱいのプレイを聴かせる。
イマジナティヴでセンシティヴな素晴らしい演奏だ。さすがにオリジナル・メンバーである。
しかしそこにはフリップ、ウェットン、ブラフォードの3人とは温度差がある。この3人が八分の力で余裕を持って演奏しているのに対し、マクドナルドは全身全霊をかけて演奏している。クリムゾンは進化し、マクドナルドはとどまった。それが現実だったのかもしれない。おそらく4人体制になったとしても上手くいかなかったことだろう。
そもそもすでにフリップはマクドナルドと組む気はなくなっていたに違いない。
『レッド』での解散は必然だったように思える。
ウェットン&ブラフォードという最高レベルのリズム・セクションを得ながらクリムゾンというバンドを維持できなかったフリップ。やるべきことはやった、言い換えればこれ以上の進化は望めない、それを悟った瞬間だったのかもしれない。
意図的に『レッド』を最高傑作にしなかった、そんな気さえする。
結果として三部作のうちで最もわかりやすい作品となり、それゆえに愛される盤になったようにも思うのだ。
80年代に入り新バンド結成の際にフリップが声をかけたのはブラフォードのみだった。
そしてそれがクリムゾン再始動へと発展し、かつてとは全く異なる音楽を展開し、賛否両論を巻き起こしたのだ。確かにこうした音楽をやるには過去のメンバーは必要なかったことだろう。
ブラフォードは90年代の再々結成にも呼ばれるが、やがて方向性の違いから脱退。フリップに対して唯一意見できると言われた彼はフリップとは音楽的に永遠に決裂した(仲違いしたわけではない)。
渡り鳥ベーシストとしていくつもの名バンドに(節操なく)関わってきたジョン・ウェットンはエイジアを結成し安住の地を得る。
しかしかつてフリップに英国一のベーシストと称えられたベース・プレイを聴くことはできない。エイジアでの彼は「ベースも弾く歌手」である。はたしてそれは彼にとって幸せなことだったのだろうか…。
ロバート・フリップは次の時代を見ていた。
ビル・ブラフォードはすでにロック・ドラマーの域を超えていた。
ジョン・ウェットンのベーシストとしてのキャリアは事実上ここで終わった。
そして、イアン・マクドナルドは二度と輝くことはなかった。
70年代キング・クリムゾン最後のきらめき『レッド』。
最高傑作にならなかった74年の傑作に真にプログレッシヴだったバンドの終末を聴く。
最後に置かれた『Starless』、それは過去のクリムゾンと訣別を果たすレクイエムだったのかもしれない。
フリップの出した答え、クリムゾンの総括、それこそが『レッド』なのである。
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