変拍子が好きである。
狭義と広義といろいろあるが、3拍子以外の奇数拍子、あるい混合拍子(2つ以上の単純拍子がつながったもの)だと捉えればそう間違っていはいないと思う。
余談だが複合拍子は変拍子ではない。誤解されがちなのが、たとえば8分の6拍子で、これは3拍子系ではなく、2拍子系である。つまり、付点4分の2拍子を譜面上わかりやすく書くと8分の6になるのである。付点4分音符は4分音符の1.5倍の長さなので、8分音符で書くと3つぶんということだ。これ3連符を多用しないで済ませるための方法なんだね。
さて、クラシック界の変拍子チャンピオンはバルトークとストラヴィンスキーだろう。異論はあるだろうが、認知度が高い作曲家ということでは、やはりこの二人だ。
ことに今年初演100周年を迎えるストラヴィンスキーの『春の祭典』は変拍子の権化のような曲。めまぐるしく拍子が変わるので、どんな拍子なのかは説明するのは難しい。
もっと聴きやすいところでは、チャイコフスキーの交響曲第6番『悲愴』の第2楽章が5拍子のワルツ(?)だし、ホルストの『惑星』の中の『火星』がやはり5拍子である。
もっとも有名な5拍子曲はジャズからかな。
デイヴ・ブルーベック・カルテットの代表曲として名高い『テイク・ファイヴ』である。イントロは確かに5拍子とわかるのだが、アルト・サックスのメロディーはあまりにも流麗過ぎて5拍子であることを忘れてしまう。ちなみに、この曲の作曲者はサックス奏者のポール・デズモンドである。
ゴジラのテーマも変拍子だね。あれは4+5の9拍子かな。
もっとも、あの元ネタはラヴェルのピアノ・コンチェルトの第3楽章だが。
変拍子というとやはりプログレッシヴ・ロックに触れないわけにはいかない。
プログレの代表的なバンドは多かれ少なかれ変拍子を得意にしていた。
変拍子を変拍子らしくなく、普通の拍子を変拍子っぽく聴かせるのに長けていたのがジェネシス。数えてみたら5だった7だったという曲が多い。それだけメロディーセンスが卓越していたということだと思う。
逆に変拍子をいかにもゴツゴツ聴かせていたのがイエス。居眠りしながら聴いていても変な拍子だということはわかる。それがカッコよかったりするのだからたいしたものだ。『シベリアン・カートゥル』での4+4+4+3のパターンがカッコよくてね。最後4にしたいところを3にしたところが非凡だよなあ。
実は変拍子の権化というと日本ではマイナーだがジェントル・ジャイアントで、まさに変幻自在のリズム処理。まともな拍子の曲はないのではないか、というくらい。
キング・クリムゾンが凄いのはむしろ80年代で、ギター2本が異なる拍子で進むということをあたりまえのようにやっている。たとえば、5拍子を2本のギターで3+2と2+3で演奏をしていく、といった単純に奇数拍子云々とは言えないものだったり、8分の5と8分の9を同時進行させることで眩暈のようなリズムを演出したり、それはそれは奥が深くずいぶん勉強させてもらった。リズム・セクションが基本となるビートを叩き出しているのだが、そもそもそれ自体が変拍子なのである。
ヴァン・ダー・グラフ・ジェネレイターは理論的でない変拍子を得意とし、決して技巧で勝負するタイプではなかったピンク・フロイドにも変拍子の曲は多い。
アメリカのカンサスなんかもさりげなく変拍子を取り入れるのが上手かった。
ハード・ロック系では何と言ってもレッド・ツェッペリン。
彼らは単に奇数拍子というものだけではなく、拍の先頭を無くしてしまうなど、幻惑させるようなリズム処理が巧みだった。『ブラック・ドッグ』がいい例だが、これは単純に数えていてもわからない。もともとジョン・ボーナムのドラミングというのが、3連符の頭を叩かないという変則的なところもあって、うまくマッチしていたというのもあるのだろう。とにかくツェッペリンのリズム処理はおもしろい。ツェッペリンはプログレであるというのも的外れではないのである。
変拍子という考え方はもちろん西洋音楽のものである。
なので西洋音楽が確立する以前、あるいはそれ以外の地方では変拍子がむしろ普通という場合だって少なくない。
東欧やバルカン半島の民謡には奇数拍子のものが多い。ことにバルカン半島は変拍子の宝庫らしい。
中世あたりだと文化レベルはアラブ世界の方が高くて、向こうのリズムは複雑なものが多く、それを導入した西洋音楽(いわゆるハイブリッド)にはユニークなリズム処理のものが少なくない。
たとえば『モンセラートの朱い本』のリズム処理は西洋的ではない部分が見受けられる。
というわけで、いろいろ能書きをたれてきたが、ここで究極の変拍子とも言える曲を紹介したい。
誰もが知っている日本の手毬唄『あんたがたどこさ』である。
さあ、この曲は何拍子かな?
では、種明かし。
あんたがたどこさ(4)
ひごさ(2)
ひごどこさ(3)
くまもとさ(3)
くまもとどこさ(4)
せんばさ(2)
というように続いていく。
つまり、4+2+3+3+4+2、、、という超絶変拍子ということになる。いわゆる可変拍子ってやつだ。
もっともこれはメロディーがあって、それを無理矢理譜割りしたらそうなっただけのことなのだが…。なので、これは1拍子と解釈するのが正しいようだ。それでもリズム的におもしろいのは間違いない。
少し前に陰陽座という日本の妖怪メタル・バンドのライヴによく行っていたのだが、彼らも曲に変拍子を交えることがあった。それまでノリノリだった聴衆が変拍子が始まった途端ピタリと動きを止めてしまうのがおもしろかった。慣れていないということなのだろう。
慣れてしまえばどうってことはないのだ。
5拍子や7拍子のグルーヴって意外に気持ちいいんだけどな。
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