南紫音(みなみ・しおん)というヴァイオリニスト、名前だけはずいぶん前から知っていた。ただ、実際に音を聴いたのはつい最近のことである。その美少女然としたジャケットからルックス先行と勝手に決め込んでいたのだ。
昨年サポーターズ・クラブが発足したとの連絡が来て、リサイタルの先行予約ができるという。無伴奏のリサイタル、そのプログラムを見て驚いた。バッハ、イザイはいいとして、バルトークをやるというのだ。これで俄然興味が湧いてきてしまった。というわけで、入会してチケットを手配。CDを聴く前というのだから、見切り発車もいいところである。
で、すでに出ている2枚のCDを聴いてみたら、清潔感のある美しい音色で、しかも芯の通ったしっかりした音楽を奏でていることに感心した。(写真は2ndアルバム『Bloom』)
で、今日がそのリサイタル。場所はトッパン・ホール。
プログラムは以下の通り。
01.イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第6番 ホ長調 作品27-6
02.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番 ハ長調 BWV1005
<休憩>
03.バルトーク:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ Sz.117
<アンコール>
04.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番より 第3楽章
05.パガニーニ:カプリース第13番 変ロ長調 作品1-13
ヴァイオリンの名手イザイは6曲の無伴奏ソナタを作曲している。いい意味で技巧的なおもしろみのある曲ばかりである。6番は単一楽章の7分程度の曲。技術的にはこの曲がいちばん難度が高いらしい。
彼女は意外なほどボディのしっかりした音を出す。高音もヒステリックにならず、柔らかい。しなやか、というのがいちばん近いだろうか。繊細なのだがひ弱ではない。ファンタジックな情趣に溢れた好演だった。彼女の音には清潔感がある。
バッハの6曲のソナタとパルティータの中から3番のソナタとは、ずいぶん渋いところを選んできたものだと思う。この曲は第2楽章の長大なフーガが聴きどころだと思うが、ゆったりめのテンポで演奏したのはさすがだ。若干ボウイングが安定しない箇所もあったが、取り立ててマイナスというほどでもないだろう。終楽章の疾走感も心地いい。やはり音が美しいという印象だ。雑なところは一切なく、人によってはやや神経質という感想を持たれるかもしれない。
ヴィブラートが抑え目なのは昨今のピリオド奏法の影響か。というか、バロック・ヴァイオリンも勉強しているらしい。
発展途上とは思うが好ましいバッハである。
休憩を挟んで注目のバルトーク。
難曲である。弱音器の着脱という要素もあって、より難度を高めている。
バルトーク晩年の作品だが、全盛期の緊張感に溢れた厳しい作品である。バルトークの作品はうまく弾くだけではどうにもならない部分があって、民族色をどう出すかというのが大きなポイントになると思う。さらに、バルトークは対位法の大家でもあって、旋律楽器での多声処理をどうするかも聴かせどころである。さらにリズムの拍節感も西洋音楽のイディオムとは異なる部分も少なくない。破綻なく弾くこと自体が難しいのに、それだけでは音楽としては成立しないという、まさに難曲と言えるのではないかと思う。
まず、彼女の音色はバルトークに合っていると思った。張り詰めた緊張感がビンビン伝わってくるのだ。民族的な情緒にはやや欠けるものの、その緊迫感には説得力がある。荒々しい楽想も鋭利な刃物で切りつけるかのような感じだ。静かな第3楽章(バルトーク独特の夜の音楽と思う)も抒情的でありながら、やはり緊張感が漂う。この集中力はたいしたものだと思うし、この厳しさはバルトークの一面を言い得ているように思う。
バルトークの最高傑作のひとつという印象を新たにしてくれた素晴らしい演奏だったと思う。
アンコールはバッハのソナタから第3楽章ラルゴを再演。
もう1曲は予想通りパガニーニ。24番でなかったのは予想外だったが…。13番は「N響アワー」のクロージングのコーナーに使われている曲。
トッパン・ホールは響きのいいホールだ。
今日はほぼ中央という聴くには絶好の席。
私はヴァイオリンの音というのはあまり得意ではなく、それゆえかお気に入りのヴァイオリニストというのは多くない(若手では川久保賜紀、ヒラリー・ハーン、アリーナ・イブラギモヴァ)。
彼女の音は好みに合うし、弾いているときの立ち姿もよい。
終演後にサポーターズ・クラブでチケットを手配した人を対象にトーク・イベントが行なわれた。
演奏後で疲れているだろうに、と思いつつも、なかなか楽しいイベントだった。ハキハキとものを言う、感じのいいお嬢さんだ。
今回の無伴奏だけのリサイタルはバルトークを弾きたいと思ったことから始まったのだという。
また、今後やりたい曲としてはベルクのコンチェルトを挙げていた。これはきっと合うと思う。
いくつか質問を考えていたのだが、トーク中に話題になってしまっていた。しかし、こういうときに黙っているのは損。なんでもいいから訊いたもの勝ちである。というわけで、「バルトークは素晴らしかった。関心のある20世紀音楽は」というようなことを訊いてみた。すると、返ってきた答えはリゲティ。いいね!
8月にはフィリア・ホールでイザイの無伴奏ソナタ全曲演奏会がある。1番、2番、5番が初披露になるそうだ。
先行抽選にエントリーしているのだが、どんなものだろうか…。
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