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2010年04月20日23:09

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ロシアの妖精

ロシアの妖精と呼ばれているヴァイオリニストをご存じだろうか。

アリーナ・イブラギモヴァ(Alina Ibragimova)、1985年生まれというから、まだ20代半ばという若さ。日本ではまだあまり知られていないかもしれない。録音はいくつかあるが、正規の国内盤としてはリリースされていない。
しかし、このヴァイオリニストは凄い。

私のアンテナに引っかかったのは、大好きなシマノフスキやハルトマンの作品を録音していたため。これだけでタダモノではないと思わせるに十分だ。

ハルトマンがデビュー盤になるのだろうか。
ヴァイオリンと弦楽オーケストラのための『葬送協奏曲』をメインに、無伴奏の組曲とソナタを2曲ずつというカップリング。
『葬送協奏曲』はナチスに対する抵抗を表明した、タイトルどおりの陰鬱な曲。陰鬱ではあるが、美しくエモーショナルなのがハルトマンらしいところ。モノクロームの鎮魂歌と言うこともできるだろう。かつてはシュナイダーハンのヴァイオリンを得たクーベリックの名演があった(今でもカタログに残っているのだろうか?)。
イブラギモヴァのヴァイオリンはシャープでありながらあまりにも美しい。透き通るような高音の美しさには戦慄を覚えるほど。しかも切迫感があって、音楽に説得力がある。
無伴奏の曲では彼女の魅力がよりダイレクトに伝わってくる。バッハの無伴奏曲を意識したと思しき曲だが、モダンな響きの中にノスタルジックな雰囲気が漂うのが興味深い。ハルトマンが前衛のための前衛ではなかったことを改めて感じる。正確な技巧と磨き抜かれた美音は録音当時20歳そこそこだったとは思えないほどだ。
この1枚だけでイブラギモヴァの名前は強烈に印象付けられる。
(ちなみに、ハルトマンについては4月16日の日記に書いているのでよろしければどうぞ)

シマノフスキのヴァイオリンとピアノのための作品全集は、アルバムとしては3枚目になる。
3曲からなる『神話』がステージ栄えする曲としてヴァイオリニストに好まれているようだ。シマノフスキ作品としては比較的録音も多い方だと思う。
イブラギモヴァのシマノフスキは凄すぎる。
シマノフスキはカメレオンのように作風を変えた作曲家だが、共通しているのは官能的な響きということだと思う。ゆえに美音が求められる。
私にとって最高のシマノフスキ音楽の再現だった。
頽廃的な爛れるような官能性には欠けるが、その代わり清潔感のある抒情性で魅了する。透明度の高い高音は本当に美しい。線が細いという向きもあろうが、逆にその繊細さが魅力でもある。
技術的にも難曲揃いなのがシマノフスキの特徴でもあるが、彼女の技巧には全く不安定なところがない。テクニカルではあるが、メカニカルではない。
凄いぞ、イブラギモヴァ。。。
収録曲は、ノクターン&タランテラ、神話、ロマンス、ソナタ、パガニーニよるカプリース、子守歌。これでヴァイオリンとピアノのための曲は全てらしい。どれもシマノフスキらしい綺麗だけれど風変わりな曲だ。意外にパガニーニが楽しめる。
セドリック・ティベルギアンのピアノも好演だ。

さて、前記2枚はなにぶんにもマニアックだということは否めない。20世紀音楽なので、万人にオススメできるとはいかなのがツライところだ。
で、昨年リリースされた4枚目のアルバムがバッハの無伴奏ソナタとパルティータなのだ(2枚組)。ヴァイオリニストなら一度は取り組むことになるであろう曲集。ヴァイオリン音楽の最高峰に位置するものだと言っても過言ではない。それゆえに名演名盤は数限りない。だからこそ、その中に割って入るのは難しいとも言える。
このイブラギモヴァには驚いた。
ハルトマンやシマノフスキでは極めて美しいヴィブラートを聴かせていた彼女が、ここでは全編ノン・ヴィブラートで演奏しているのだ。もちろんその美しい音色は変わらない。
音がよりリアルになっていると言うべきか。中低音ではまさしくヴァイオリンという楽器は弦を弓で擦って音を出す楽器だということを改めて感じた。透き通るような凛とした高音も決して冷たいものではない。ギスギスした印象は全くない。ヒステリックに響くこともない。
過度な表現をしているわけではない。恣意的な解釈をするわけでもなく、激しく自己主張をするものでもない。情に流されず、厳しくも生き生きとした演奏だ。凛としたたたずまいが魅力的だ。
そして何より極めて美しい。
こんなに美しいバッハのヴァイオリンを聴いたのは初めてかもしれない。
今までそれなりにいろいろな盤を聴いてきたと思う。ヴァイオリニストにとって重要な曲だけあって「これはダメ」というのはなかった。逆に「この人でなくては」と言い切れるものもなかったように思う。
イブラギモヴァの演奏には言える。彼女のバッハは最高だ、と。

ヴィクトリア・ムローヴァが好きだった。ヒラリー・ハーンが出てきたときも驚いた。
しかし、イブラギモヴァを聴いたときの衝撃は彼女たち以上だと言ってもいい。
妖精と言われるだけあってなかなかチャーミングなお嬢さんのようだ。
これからの活躍が楽しみだ。日本に来てくれないかなあ。。。

ちなみに、2枚目のアルバムはロシアの現代作曲家ロスラヴェッツのヴァイオリン協奏曲なのだが、まだ聴いていない。ショスタコーヴィチと同時代なのだが、体制に弾圧されるような、前衛的な作品を書いた人らしい。
ショップで探すか、ネットで注文するかしようと思う。

写真左、ハルトマン:葬送協奏曲
写真中、シマノフスキ:ヴァイオリンとピアノのための作品全集
写真右、バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ
4枚目のアルバムにして初めて顔出しジャケット。小さいけど。。。
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