久々に夢中になって本を読んだ。
巻を措く能わず、とはこういうことを言うのだろうと思う。
『不思議取り扱います 付喪堂骨董店』 御堂彰彦著、電撃文庫全7巻
ライトノベル(略してラノベ)に分類される。ラノベと馬鹿にするなかれ。
そもそもラノベとはヤングアダルト、つまりティーンを対象にした、主に文庫で刊行される小説のことである。若者の活字離れに歯止めをかけている貴重な存在だ。対象が対象なだけにハイティーンの少年少女が主人公ということが多い。
優れたものも少なくない。ラノベ出身の桜庭一樹女史が直木賞を受賞したことも記憶に新しい。
たいていは萌え系の表紙に扉絵や挿絵があって、それがかえって常識的なオトナを遠ざけてしまっているとも言えなくない。
実際のところ優れていれば一般小説もラノベも関係ないと思う。
さて、この付喪堂(つくもどう)だが、不思議な力が宿ったアンティークと呼ばれる物を巡る物語。魔導器あるいは呪器のようなものだろうか。本文中では、幸運を呼ぶ石、未来の姿が映る鏡といった喩えで紹介されている。それらを手にした人々の物語だ。付喪堂とはそのアンティークのフェイクを扱う骨董店。
メインキャラは付喪堂でアルバイトをする高校生の来栖刻也(くるす・ときや)、バイト仲間の舞野咲(まいの・さき)、それに付喪堂のオーナー摂津都和子(せっつ・とわこ)の3人。刻也の右目には義眼が入っていて、これがアンティーク。
ミステリーともファンタジーともつかない物語が展開される。アンティークには確かに特殊な能力がある。ただ、たいていアンティークは持った人や周りを不幸にする。よってオーナーの都和子は人がアンティークを持つことを好まない。アンティークは運命を捻じ曲げる、そして捻じ曲げられた運命は修復しようという力が働くのだそうだ。
ラノベ版世にも奇妙な物語、と言われることも多いようだ。かなり違う気もするが、一言で紹介するには相応しいかもしれない。
全巻きれいに4章仕立てになっていて、基本的に1章完結となっている。各話でどんなアンティークが出てくるのかというのも楽しみだ。謎解き的な要素もあって、仕掛けもたくさんある。
また、ヒロインの咲がいい味を出している。感情がないと思えるくらいに無表情で、光の具合によっては銀色に見える長い髪に黒ずくめの衣装という美少女。彼女には謎があり何か重いものを背負っているということを窺わせる描写は最初の頃からあって、彼女の存在がメインストーリーの中核を担っているというのが悲劇的なものを予兆させるのだ。
もちろん美女のくせに性格がアニキな都和子もカッコいい。
主人公の刻也も妙に生真面目で好感が持てる。鈍感なところはお約束とも言えるが、いざというときには力を発揮する。あまりアクが強くないぶん肩入れしやすい。
シリアスな話が多いのだが、毎巻4話目は刻也と咲のすれ違いを描くラブコメ的なものになっている。一見クールすぎる咲の天然ぶり炸裂の心の動きが笑える。
救いのない話が多い中で、この4話目がいいアクセントになっている。と同時に咲の愛らしさを強烈に印象付ける。咲に感情移入すればするほど、悲劇を迎える予感に切なくなる。
この作家は上手い。
6巻と7巻は1話完結のスタイルをやめて、メインストーリーを追う長編となっている。
5巻を読み終えたとき、先が気になるのに読みたくないという不思議な気分になった。つまりそれは物語をそのまま留め置きたいということだ。もちろん読むのをやめるなどということはできるわけもない。
読み始めるとページを繰るのももどかしい。本を置くことができない。読書の醍醐味だと言える。
ラノベはシリーズ物が多い。長いものも少なくない。
全7巻というのは決して多い方ではない。長すぎるのもどうかと思うこともある。飽きてしまうし、刊行には間が開くからそれまでの展開を忘れてしまう。終わってしまうのは淋しいが、せいぜい10巻くらいでキレイに着地させて欲しいと思う。
張り巡らした伏線を全て収束させるにもそのくらいが手ごろなのではないかとも思う(読む方にとっても)。
もう一度言うが、この作家は上手い。
結末の付け方も意外性があるし、伏線の回収の仕方も申し分ない。おそらく再読すると違ったものが見えてくるだろう。
文章もテンポがよく、今風の言葉遣いが少ないのも好感度が高い。
この作家の作品は前作の『12 DEMONS』という上下巻を読んでいて、これがなかなかおもしろかった。なので、付喪堂は刊行当時から読んでいた。4巻まで読んでやめていたのは飽きたのではない。一気に読みたかったのだ。というわけで、最終巻刊行と同時に1巻から一気読み。
そういえば、途中で読めなくなった本というのが他にもあった。
アンドレ・ジッドの『田園交響楽』だ。中学のとき、薄っぺらい本なのに、途中から読めなかった。何度も何度も途中までしか読めなかった。盲目の少女ジェルトリュードの悲劇的な運命を辿るのを拒んでいたのかもしれない。
しかし、そこまで入れ込ませてくれるのはいい本だと思う。
全巻表紙はヒロインの咲。
ラノベ系にありがちなはっちゃけたお元気娘ではない。クールで無表情。実は天然なのだが、それを覗かせることはあまりない。アンティークがらみでよく死と隣り合わせの酷い目に遭う悲運のヒロインだ。写真のように1巻と7巻を並べてみると、ちょっと構図は似ているが雰囲気が全く異なる。つまり、そういうことだ。
電撃文庫の人気シリーズ、たとえばアニメにもなった『キノの旅』『狼と香辛料』『灼眼のシャナ』あたりと比べると、あまり評判にはなっていないようだが、間違いなく傑作と思う。
終わってしまったのはやっぱり残念だ…。
ログインしてコメントを確認・投稿する