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2010年01月20日22:23

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アリスという名のピアニスト

21歳のピアニストが話題だ。
アリス=紗良(さら)・オット、ドイツ人の父と日本人の母を持つ新進のピアニスト。
先日「情熱大陸」という番組で取り上げられていたので、ご覧になった方も多いかと思う。
すでに名門ドイツ・グラモフォンから3枚のCDをリリースしている。

しかし、最近は本当に綺麗な人が多い。
映像作品も重要なアイテムになりつつあるから、ヴィジュアル的に映えるというのは強みだと思う。もちろん演奏が秀でているというのは前提条件なのだが…。そこが逆転してしまうと、結構悲惨なことになる。で、そういうのも少なくなかったりする。

おっと、話がそれた。。。

デビュー盤がリストの『超絶技巧練習曲』というのに驚いた。全12曲60分超の、その名の通りの難曲。技術的に難しいだけでなく、内容的にも深いのがリストの面目躍如といったところか。
初めてこの曲を聴いたのはラザール・ベルマンが弾いたLPだった。衝撃的と言われたほど世評の高い盤だったが、音は綺麗じゃないしヒステリックだし、「どうだすごいだろ」と言わんばかりに聴こえて、つまらない曲だと思ってしまった。ファースト・インプレッションというのは重要である。結局この曲のよさに気付いたのは、それから10数年後にホルヘ・ボレットの録音を聴いてからだった。遅すぎると言われることの多い演奏だが、リストの言わんとしていたことがたっぷり詰まっている演奏のような気がした。音も綺麗だし、速けりゃいいってものでもないだろう、と思ったものだ。
アリスの演奏はいい。表面をなぞっただけの技巧頼りではない。左手の打鍵が強く、重心が低い。それでいて、高音から低音まで音がクリアーだ。音の粒立ちがよく、音楽の輪郭が明確になる。
つまり、私の好きなタイプのピアニストだということだ。
ときとして自身の技巧を御しきれていないと思しき部分もなくはないが、それすらも好ましく感じる。だって、若いのだから、それは可能性ということだ。
久々に充実した『超絶技巧練習曲』を聴いた思いがする。
ジャケットは美人であることを十分に窺わせると同時に強い意志力を感じさせる。ただ、表情がいくぶん硬いか。(写真左)

第2弾はガラッと変わってショパンのワルツ集。
ワルツ集といったら、誰が何と言おうとフランソワだ。いい意味でのサロン的な小粋さがなくてはならない。マジメすぎては絶対にダメ。奏者の語り口が問われる。技巧とは別の意味で難曲と言うこともできるだろう。
もっとも、フランソワやリパッティのような切り口で演奏する人はもう出てこないのかもしれないが…。
となると、美音と歌心で勝負ということになると思う。注目ポイントは「短調のワルツをどう弾くか」だ。有名な嬰ハ短調のワルツや『別れのワルツ』に代表されるような哀愁味たっぷりの曲をどう聴かせてくれるか、それに尽きる。
アリスのメロディーの歌わせ方はいちいち心の深いところに触れてくる。そりゃあ、フランソワの小じゃれた雰囲気には及ばないが、その代わり清楚な可憐さがある。長調の曲もどことなく翳りがあっていい感じだ。基本はマジメなのだが、胸がキュンとなるような部分がたくさんある。
美味い酒が欲しくなる演奏だ。
儚げなジャケットもいい感じ。絶対にヴィジュアルを意識しているな。(写真中央)

最新盤はつい先ごろリリースされたばかりのチャイコフスキーとリストのコンチェルト集。
申し訳ないがチャイコフスキーのピアノ・コンチェルトは何故かじっくり聴いたことがあまりない。正直に言うと、3分で飽きてしまうのだ。最初の1分だけでよければ、大好きな曲だ。
だからLPにしろCDにしろ持っていたことがない。だからこの盤が初めてだ。
別にチャイコフスキーとの相性が悪いわけではない。むしろ好きな作曲家と言ってもいい。
で、聴いてみたら、飽きなかった。
もちろん演奏の良し悪しを言うほどの経験値はない。でも、飽きずに聴かせてくれたのは嬉しい。それでいいかな。
冒頭のホルンの音色が乾いて聴こえるのが気になるが、そんなものなのかなあ。
一方リストの方は安定した技巧に裏打ちされた抒情的な演奏。豪快に弾きこなすというよりも、繊細に仕上げたという印象。やはりリリカルな表現に長けているのだろう。もちろんここでも低音の鳴りがいいので、ひ弱には聴こえない。凛としたたたずまい。名演の多い曲なだけに、その中に割って入るのは難しいことと思うが、まさに今の時代の「生きた」演奏だと思う。
ジャケットの愛らしさならこれがベストか。可愛いのに気が強そうなところがいいね。(写真右)

グラモフォン所属ということでプレッシャーはかかるだろうが、小さくまとまらないでほしいと思う。
豪放磊落、天真爛漫、それでいい。
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