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2010年01月04日22:41

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幻想交響曲が好き

ベルリオーズの幻想交響曲が好きである。

幻想交響曲という題名がいい。初めてその曲名を知ったとき、なんてカッコいいんだろう、と思ったものだ。もしこれが交響曲第1番『幻想』などというものだったら、それほどときめかなかったに違いない。
しかし、実際に幻想交響曲を初めて聴いたときの感想は、なんだかグロテスクで気持ち悪い音楽だなあ、というものだった。カッコいいのは曲名だけじゃないか、と。まあ、小学生の頃だから仕方があるまい。

この曲は「恋に破れアヘンを服用した青年が見た幻想」を描いている。
青年とはもちろん血気盛んなベルリオーズのことだ。恋の相手は売れっ子シェークスピア女優のハリエット・スミッソン。華やかなショウビズ界の彼女に対し、ベルリオーズは駆け出しの作曲家。時は19世紀、叶うはずのない恋である。燃えるような恋心はやがて可愛さあまって憎さ百倍となり、その告白こそが幻想交響曲なのである。よって「彼女」を示すメロディーが全曲に渡って変容しつつ登場する。最後の魔女たちの宴に登場するときには醜く滑稽に変わってしまっている。
もっとも、コケの一念とは恐ろしいもので、最終的にベルリオーズはハリエットとの結婚のこぎつける。ベルリオーズという人はそれ以外にも奇天烈な行動に事欠かないとても「愉快な」人だったようだ。

下手をすれば時代に咲いた徒花に過ぎなかったのかもしれないが、実は極めて革新的で斬新な曲だったのだ。
純粋器楽であるシンフォニーにストーリーを持ったプログラムを導入したこと(標題音楽)、固定観念と言われる主題を全曲に渡って登場させたこと(後のワーグナーのライトモティーフの先駆け)、そして画期的な管弦楽法(マーラーはベルリオーズの管弦楽法を勉強したに違いない)。もうひとつ、ユニークなリズム処理というのも挙げておこう。拍節感が混乱してしまうような場面がいくつもあるのだが、実は譜面上には変拍子はほとんどないのだ。さらに、大マジメであるはずのシンフォニーのエンディングが魔女たちの乱痴気騒ぎだというのも相当な型破りだったろう。とにかく凄い曲なのだ。

綺麗な世界だけを見ていたければ聴く必要は無い。
お子様は聴いてはいけない。

年末から熱に浮かされたように聴きまくっているのだが、きっかけはジョス・ファン・インマゼール&アニマ・エテルナの新譜である(写真左)。その時代を再現したピリオド楽器による演奏である。普通テューバで代用されるオフィクレイドもそのものを使っているそうだ。今でこそピリオド楽器による幻想交響曲も珍しくなくなったが、これは情感の起伏が激しく刺激的な演奏になっている。ノン・ヴィブラートの演奏だからといって、普段聴きなれたこの曲の印象を大きく変えるものではないが、あの時代はこう響いていたのかなあ、と思わされるには十分だ。ただし、終楽章に入る鐘は、学究的判断からピアノに置き換えられている。ここはやはり鐘がいいなあ、と思ってしまうのは仕方がないか。時代考証も大事だと思うが、それと人を感動させられるかどうかは必ずしも一致しないというこだろう。
とはいえ、一聴の価値ありだ。ジャケットがなんでテナガザルの骨格なのかはよくわからないが…。

名曲なだけに名盤も数多い。どれを選ぶか迷うところだ。ミュンシュ&パリ管の世評が高いが、ちょっと荒っぽいように思えるのは気のせいだろうか…?
私のイチオシはイーゴル・マルケヴィチ&ラムルー管の1961年の録音だ(写真中央)。全体的にゆったりしたテンポだが、緩急のメリハリがあって、引き締まった印象だ。さらにオーケストラの色彩感が抜群で、やや乾いた音色の金管もこの曲には合っている。低音の響きも迫力がある。明晰であると同時に、品のよい薫りが立つような演奏。冒頭のゆったりしたテンポを聴けば、この演奏は尋常でない、と思うはずだ。幻想交響曲の名盤数あれど、真っ先に手を伸ばしたくなるのがこの盤だ。綺麗な女性のことを「匂うように美しい」と言うことがあるが、まさにそんな演奏だ。

もうひとつは最近聴いたものなのだが、ラファエル・クーベリック&バイエルン放送響の1981年のライヴ盤(写真右)。クーベリックと幻想交響曲という組み合わせは意外なように感じるが、これが予想に反して凄い演奏なのだ。3楽章まではクーベリックらしく端整で、しかし緊張感を持ちつつ情感豊かに進んでいくのだが、4楽章と5楽章で爆発する。指揮者もオーケストラも燃えている。クーベリックという人が実演では燃えるタイプだということは見て知っていたが、ここに記録されているのはこの典型と言えるだろう。しかも、オーケストラの響きは極めて美しい。当時のバイエルン放送響が世界トップクラスの実力を持っていたことを十分窺い知ることができる。さらに言うなら、終楽章の鐘は低い音色で、ベルリオーズの意図したものに近いのではないかという気がする。
最初に聴く幻想としては相応しくないかもしれないが、セカンド・コレクションとしては十分にオススメできると思う。
ちなみに、私はクーベリックという指揮者が大好きである。

ほかにもいい演奏はたくさんある。異型の曲であるがゆえに、指揮者もやりがいがあるのだろう。それにオーケストラの能力を量るのにも適している。

自意識過剰の変人ベルリオーズ、それゆえか(?)彼の作品には枠を飛び出した快作が多い。幻想交響曲のみが突出した人気だが、ほかの曲も負けず劣らずおもしろい。そういう点ではベルリオーズ再評価はまだこれからだと思う。
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