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2009年10月29日23:32

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最凶軍団が戻ってきた

世の中に凶悪な音楽は数あれど、こけおどしでなく「最凶」と言えるのは彼らしかないだろう。

スレイヤー(Slayer)。

スラッシュ・メタルの代表選手。スラッシュ(thrash)とは「ムチ打つ」という意味だ。情緒的で華麗なギターソロを排し、高速なリフで曲を構成する。ヘヴィ・メタルとハードコアとの融合という見方もできる。後にデス・メタルやグラインド・コアといったより過激なスタイルに引き継がれていくわけだが、そんな中にあってもスレイヤーの過激さは一向に色褪せることがない。

スタジオ・アルバムとしては通算10枚目となる『World Painted Blood(血塗ラレタ世界)』がリリースされた。
相変わらず「良い子が聴いてはならない」音楽ぶりだ。
アルバムをリリースするたびに物議を醸すと言っても過言ではない。過激という点では極北を行く。
わかりやすいメロディーなどない。激烈なリフのみで曲ができている。スピードとアグレッションに特化している。今やエクストリーム・ミュージック界の重鎮だ。しかし、メジャーになってからもアンダーグラウンドの匂いがプンプンして、マイノリティの帝王のような存在感がさすが。

この手の音楽が特別好きなわけではない。ことに最近はあまり積極的に聴こうとはしないかもしれない。しかし、スレイヤーは特別だ。
実はミュージシャンシップの非常に高いバンドなのだ。
勢いで聴かせるような印象を与えるが、実は曲はきっちりと練られている。曲構成は複雑で、変則的なリズム処理も多い。惜しげもなく多くのリフを注ぎ込んで構築的に音楽を作っているのだ。結果として高度な技巧を要し、演奏の難度が極めて高くなる。高速変拍子もお手の物なのだ。
見た目によらず、音楽的にはとても真摯であると言えよう。
殺人や自殺や異常心理といった人間の負の部分を扱った歌詞も、意外なほど詩的である。それゆえに深く恐ろしく、説得力があるのだ。

メンバーは、トム・アラヤ(vo,b)、ジェフ・ハンネマン(g)、ケリー・キング(g)、デイヴ・ロンバード(ds)の4人。
2人のギタリストが複雑なリフを精密機械のようにキメていくのは壮絶だ。しかもソロは流血するように流麗なのだ。
そしてやはり特筆すべきはデイヴ・ロンバードの鬼神のようなドラミング。技術的に優れているのはもちろんだが、それだけではない。ときとして曲をリードするかのような存在感と迫力。正確でありながらうねるようなグルーヴ感がある。多くのメタル系のドラマーは技術的にはすごいものを持っているのに、パターン化してしまいおもしろみに欠ける。それとは全く対照的だ。

今回のアルバムもまさにスレイヤーにしかものにできなかったような傑作だと思う。急緩の変化もあり、全体的に奥行きが増した印象だ。
しかし、彼らの場合はいくら優れた作品を作ろうとも、その前に立ちはだかる壁があまりにも大きすぎる。名盤中の名盤と評される彼ら自身の3rdアルバム『Reign In Blood』(1986年)が自らの枷になってしまうのだ。ピンク・フロイドにとっての『狂気』のようなものだろう。歴史の中で名盤としての評価が定まったものを凌駕するのは難しい。スレイヤーは常に自らの最高傑作を超えることを期待され、そのプレッシャーの中で高レベルの作品を作り続けてきた、そのこと自体がすごいことだと思うのだ。
確かに『Reign In Blood』は神(悪魔か?)の手が施されたとしか思えないような奇跡的な作品だと思う。10曲入りのアルバムなのに収録時間が30分に満たないというのも驚きだ。
しかし、今回の『World Painted Blood』には熟練の味がある。曲のバリエーションが増え、歌詞はより深みを増した。より思索的で哲学的になったと言えようか。
全11曲(ボーナストラック除く)でおよそ40分間。これも一般的なアルバムからすると時間は短い。しかし濃密だ。人によってはどの曲も同じに聴こえると言うかもしれないが、聴けば聴くほどに違いがわかってくる。ヘヴィゆえにいつも聴いていたい音楽というわけではないが、何度も聴かずにはいられないような麻薬的な魅力がある。
良い子は聴かなくていい。というか、聴いてはいけない。
危険な世界から引き返せないかもしれないという覚悟を決められる人のみ聴けばいいと思うのだ。

誤解を恐れずに言うなら、プログレッシヴ・ロックとしても十分に聴けるのだ。
スレイヤーを好きなのはそんなところも理由なのかもしれない。
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