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2012年10月05日22:03

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黒豹

邦題の『黒豹』はジャケットからだろう。
原題は『Feline』。猫のような、ずるい、しなやかな、という意味である。

ストラングラーズ(Stranglers)の7枚目のアルバム。
あらゆるロック・アルバムの中で私が最も愛するものの1枚である。
ひとことで言うなら、ヨーロピアン・デカダンス。

ストラングラーズはロンドン・パンクを代表するバンドである。
確かにデビュー時はパンクだった。しかし、もともとストラングラーズは一風変わっていたのだ。
パンクやニュー・ウェイヴの中では抜群に演奏が上手かった。非常に音楽的だったのだ。
後に音楽的に非常に高いところまで登り詰めたクラッシュでさえ、デビュー当時は下手クソだった(ちなみにクラッシュが見違えるほどに飛躍したのはドラムにトッパー・ヒードンを迎えてからである)。

ストラングラーズのメンバーは世代的にはパンク連中よりも少し上、むしろオールド・ウェイヴと同じくらい。
ヒュー・コーンウェル(g,vo)は大学で生物学の研究をしていた。ジャン=ジャック・バーネル(b,vo)は三島由紀夫に傾倒するインテリ。ジェット・ブラック(ds)は流通業界で成功していた実業家。その3人にしっかりと音楽教育を受けたデイヴ・グリーンフィールド(key)が合流してストラングラーズが生まれた。
サウンドの核はジャン=ジャックのリード・ベースであり、カラーを決めていたのはデイヴのキーボードだった。パンクの音作りとは明らかに異なっていたのである。ことにキーボード・サウンドによる個性の差別化は強烈で、場合によってはプログレ的文脈で語ることも可能だった。
それでも初期3枚はパンクの中核を成すバンドらしいストレートなサウンド作りだった。ところが4枚目の『Raven』からヨーロッパ耽美指向にシフトしていく。

その頂点がこの『Feline』なのである。
もはやここにはパンク・ロッカーの面影はない。
頽廃的で耽美的で知性的。
そのカラーを決定付けているのはやはり華麗なキーボード。
滅びゆくものの刹那的な美しさを描いた夜の音楽。
ヒューはほとんどの曲でアコースティック・ギターしか弾いていない。
そしてほとんどのスネア・ドラムはエレクトリック・ドラムの無機的な音。
後にも先にもここまで極端な音作りをしたアルバムはない。

ヒューの呟くようなヴォーカルを、美しくもの哀しいキーボード・サウンドが包み込む抒情的な『Midnight Summer Dream』から、タンゴっぽい虚無的な『Never Say Goodbye』まで、全9曲どれもがクライマックスである。
『Ships That Pass In The Night』が三島由紀夫の『午後の曳航』と関連があることは明らかだ。
『The European Female』はアルバム・タイトルと関連した曲で、そこに描かれているのは魔性の女。

ヨーロッパ耽美音楽紀行といった趣もある。
静かな暴力を感じさせるあたりがやはりロックというところだろうか。
混沌から掬い取った上澄み、しかしそれもまたすぐに零れ落ちてしまう。
そんな音楽である。

しかし、遡ってみると、最初の頃からこうした要素を彼らが持っていたことに気付く。
変化は必然だったとさえ思う。
1stアルバムの最後に収められたパンクらしからぬ長尺曲『Down In The Sewer』は、オルガンを中心にした場面転換の激しいプログレ的な曲である。オルガンによって紡がれるメロディーの洪水に後の音楽の萌芽が見られる。だいたいパンクとはいえストラングラーズにはメロディアスな曲が結構多いのだ。
ちなみに、sewerとは下水管のことで、そのあたりはパンク的と言えなくもない。

短命に終わることの多かったパンク・バンドの中で、ストラングラーズはオリジナル・メンバーのままで長いこと活動を続けた。その間に残されたアルバムは全て傑作と言える。
その中でも一際妖しい光を放っているのが『Feline』なのだと思う。

私にはストラングラーズの向こうにドアーズやヴェルヴェット・アンダーグラウンドやヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターが見える。

ストラングラーズらしからぬ、と言われることも多いようだが、『黒豹』は間違いなくストラングラーズにしか作れなかった傑作。ロック作品でこれほど耽美的という言葉が似合うものはあるまい。
ロンドン・パンクからしたたかに変身を遂げたストラングラーズ1983年の傑作。
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