リーズ・ドゥ・ラ・サール、フランスの若手ピアニストである。
昨年から始まった三都市(東京、名古屋、大阪)で三年間若手演奏家を追うという3×3のプロジェクトの2年目。選ばれた4人の中にリーズも入っている。
昨年はリスト・イヤーということもあってリスト作品集だったが、今日はロマン派の中核シューマンとショパンである。
01.シューマン:子どもの情景 作品15
02.シューマン:幻想曲 作品17
<休憩>
03.ショパン:24の前奏曲 作品28
<アンコール>
04.ドビュッシー:音と香りは夕暮れの大気に漂う(前奏曲集第1巻より)
05.ドビュッシー:パックの踊り(前奏曲集第1巻より)
彼女の演奏はスケールが大きい。
昨年のリストは若干力任せという部分もあったが、今回はそんなこともなくなった。
『子どもの情景』はむしろぐっと抑えた演奏。淡々とした中にもロマン的な情趣を感じさせる。暖かみのある彼女の音色がよく似合っていた。有名な『トロイメライ』を敢えて目立たせることなく、曲全体を俯瞰した演奏だった。ゆったりしたテンポの曲ではずいぶんタメが効いていた。
3部分からなるソナタのような異型の幻想曲。ロマンティスト・シューマンの面目躍如。情感と妄想の境界が曖昧で、それゆにとっつきにくいとも言えるし、シューマンならではの傑作とも言える。クララとの結婚を反対され悩んでいた時期だったこともあってか、一歩間違えればという危うさがプンプン漂ってくる。
『子どもの情景』が平穏な世界だとすれば、幻想曲はかなりアブナイ世界である。そんな奥底に沈んだ澱を掬い上げるかのような演奏だったと思う。複雑怪奇なシューマンの精神世界を想像させる。
リーズとシューマンは相性がいいのかもしれない。
この2曲でずいぶんボリューム感があった。
休憩を挟んだ後半は楽しみにしていたショパンの前奏曲。
一時期私はこの曲集が苦手だったのだが、今はショパンの作曲技法の粋を集めた傑作と確信している。聴き続けているうちにすっかり好きになってしまったよ。
ダイナミックレンジが広い。弱音の美しさが際立つ。
しかし、彼女のピアノの音はなんでこんなに暖かいのだろう。暖色系・寒色系という言い方をするなら明らかに暖色系である(ちなみに、寒色系は三浦友理枝)。打鍵は強いが音はまろやか。
1曲1曲微妙なニュアンスを弾き分ける手腕もさすがだが、淀みのない全体の流れも見事。かなりクレバーなピアニストなのだと思う。
有名な『雨だれ』に特別な意味を持たせず、後の悲劇の予兆を響かせる。このアプローチは私には好ましいものである。そして、終盤も急ぎ過ぎない。独特の暖かい音色のため、奈落の底へまっしぐら、というような救いのなさは回避されている。最後の最低音の強い打鍵も、弔鐘のように響かせた三浦友理枝とは異なり、あっさりしたものだった。
いずれにせよ、聴き応えのある演奏だった。
余談だが、私はこの最後の24番が大好きである。その前の23曲はこの曲のためにあると言ってもいいくらいのような気がする。なのでこの曲の出来がよくないと全くもって印象がよくない。もちろんこの曲だけ良ければいいというものでもない。それまでが良くないと期待が募らないので、それ以前の問題。
最後の最後に激烈かつ演奏至難な曲を置いたショパンの真意はなんだったのだろう?
この曲を聴くといつもそう思う。
アンコールは生誕150年にちなんでかドビュッシーを2曲。
来年はドビュッシーの前奏曲集か、なんてことを勘繰りたくなってくる。
リーズにはまだ少女のようなあどけなさが残っている。アイドル歌手かアイドル女優のようである。笑顔が愛らしい。1988年生まれというからまだ24歳である。すでにアルバムを6枚リリースしているのだが、日本ではまだそんなに知られていないようだ。
これを機会に多くの人に注目されるようになればいいと思う。
リーズはピアノを弾いているときの姿勢がいい。
それにちょっと細くなったかな? ドレスのせい、とたぬ〜は言うが…。
ちなみに、われわれが初めてリーズの実演を聴いたのは一昨年のLFJである。
3×3プロジェクトも来年が最終回。
どんなプログラムを用意してくるのか今から楽しみである。
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