イタリアの名指揮者クラウディオ・アバドのブランデンブルク協奏曲全曲のCDがリリースされた。アバドのバッハとは珍しいなと思っていたら、確かに長いキャリアの中で録音は少ないらしい。
ソリストに錚々たるメンバーを招いていることで話題になっているが(私はほとんど知らないが…)、なによりも注目はバロック・ヴァイオリンの名手ジュリアーノ・カルミニョーラが参加していることだろう。
なんとも楽しい演奏である。音楽の歓びに溢れている。
ベルリン・フィルをやめてガンを患ってからは、歩くのも覚束ない様子で、アバドも年取ったな、もう引退かな、などと思ったものだ。ところが、どうしてどうして、ここ数年の充実ぶりには年など全く感じないではないか。ペルゴレージのシリーズもそうだったが、生命感に溢れる生き生きとした音楽を作り上げている。もう70代も半ばを過ぎたというのにこの若々しい音楽はなんだ?
メータやムーティやレヴァインや小澤らとともにポスト・カラヤンとして注目されていた指揮者である。その中で私はアバドがいちばん好きだった。何故なら、マーラーをいちばん見事に振るからだ。最も信頼できるマーラー指揮者のひとりである。
本来は緻密な音楽を作る人である。理知的という印象が強い。
そのアバドがこのような感興溢れる音楽を作るとは…。
年を重ねて辿り着いた境地なのだろうか。
おおらかな音楽はとても好ましい。
いい年の取り方をしたのだなと思う。音楽界の政治的なしがらみから逃れ、今は本当に好きな音楽を思うがままに演奏できているのかもしれない。
このCDを聴いていて、アバドはずっと笑顔で指揮をしていたのではないか、そんな気がする。
これは2007年のライヴ録音である。向こうでは映像もリリースされているらしい。
聞くところによると、アバドは6番では全く指揮をせず、5番の第2楽章のヴァイオリンとフルートとチェンバロの三重奏では演奏に聞き入っているのだそうだ。
それでもアバドの影響下にある音楽であることは間違いないだろう。いまやまさに演奏者全員に敬愛される真のマエストロとなったのかもしれない。
少人数のモダン楽器による演奏である。スタイルとしては、ほとんどノン・ヴィブラートである。カルミニョーラのみバロック・ヴァイオリンを弾いている。そこに様式的な違和感は感じない。
このような音楽を聴かされると、やれモダン楽器だ、やれピリオド楽器だ、というのがナンセンスのように思える。いいものはいい、それでいいではないかという気がする。
もっとも、リコーダーは考えようによってはピリオド楽器だ。映像を見ていないのでハッキリとはわからないが、音色からフルートはトラヴェルソかもしれない。少なくとも金属製ではなく木製のフルートなのではないかと思う(違っているかもしれないが…)。当然6番にはガンバが入るわけだし、ブランデンブルクの曲集自体そもそも新旧楽器が混在していると言ってもいい。
アバドのおおらかさの前には全ての理屈は不毛ということかもしれない。
すごい境地に辿り着いたものである。
ブランデンブルク協奏曲というと、オーレル・ニコレらの名手を得たカール・リヒターの歴史的名盤を愛聴していた。これを超える盤は出ないのではないか、ずっとそう思っていた。アバド盤が超えたとは思わない。ただ、間違いなくこれは愉しい。リヒター盤とは異なる趣がある。これからはこの盤を聴くことが多くなりそうだ。
ちなみに、拍手は入っているが、曲中のノイズはほとんどない。あるのかもしれないが、気にならない。
個人的にはミカラ・ペトリのリコーダーが嬉しい。相変わらず綺麗な音を聴かせてくれる。
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