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2010年10月18日23:35

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高木綾子@紀尾井ホール

フルート奏者、高木綾子女史のデビュー10周年記念コンサートに行ってきた。

もう10年になるのか…。
いちばん最初に聴いたときの印象は「女の子なのにずいぶん太い音を出すなあ」というものだった。高音になっても尖らず、軽くならず、ボディのしっかりした音を鳴らしていた。
使っている楽器がハンミッヒと知って納得した。ドイツのハンミッヒ製のフルートは渋い音が出ることで知られている。フランス・タイプの軽くてきらびやかな音色のフルートが主流の現在にあって、ハンミッヒを選んだ彼女のセンスに感服したものである。
リードのないフルートという楽器はまさに空気の震える音を出す楽器である。それゆえ、奏者によって音の質感が如実に異なるのである。

遡ってみると、最後にコンサートを聴いたのは4年も前のことになる。
それから今までの間に彼女は結婚をして、昨年出産も経験した。レコード会社もavexに移籍した。公私ともに充実しているのだろう。

前置きが長くなってしまったが、そろそろ本題に。。。

高木綾子:フルート
坂野伊都子:ピアノ

01.ドヴォルザーク:ソナチネ
02.シューベルト:『しぼめる花』の主題による変奏曲
<休憩>
03.イサン・ユン:5つのエチュード
04.フランク:フルート・ソナタ(原曲:ヴァイオリン・ソナタ)
<アンコール>
05.ドヴォルザーク:4つのロマンティックな小品より第1曲
06.バッハ:無伴奏フルートのためのパルティータよりアルマンド
07.村松崇継:Earth

ドヴォルザークのソナチネは彼の最後の室内楽で、元々はヴァイオリンとピアノのための曲。ロマン派のフルート曲が少ないことから、古くからフルート用の曲としても演奏され、僭越ながら私も練習したことがある。第2楽章のメロディーが有名。
ドヴォルザークらしい旋律美に溢れた作品で、彼女もケレン味なく演奏しているという印象だった。中低音の音色が素晴らしい。

余談になるが、ロマン派にフルート曲が極めて少ない理由は、フルートという楽器の機能的な問題による。当時のフルートは運指が難しく音が安定しないという致命的な欠点があったのである。19世紀半ばにベーム式フルートというものが開発され、これは従来のフルートに大改造を加えたもので、各種キーメカニズムの搭載に伴い運指法が大幅に変更された。しかし、機能的に大発展を遂げたフルートが広まるのには時間がかかり、ようやく20世紀初頭頃からフルート用の曲が多く書かれるようになる。というわけで、フルートのオリジナルというとバロック以前か現代曲という奇妙な状況になっているのである。

次のシューベルトの『しぼめる花』の主題による変奏曲はロマン派の数少ないフルート用の曲として重要なレパートリーだ。シューベルトらしい主題とメロディアスな変奏が続く。
彼女の暖かく深い音色が効果的だ。全体的に哀感を伴った好演だったと思う。
ちなみに、序奏の後、最初に主題を奏でるのはフルートではなくピアノということもあって、優れたピアノなくして好演はありえないのだが、その点も十分満足の行くものだった。

イサン・ユン(尹伊桑)は朝鮮(後の韓国)生まれでドイツで活動した作曲家。現代音楽の作曲家としては知名度が高い方だろうと思う。
独奏フルートのためのエチュードは5曲から成る。ユニークなのは、曲によってピッコロ、アルト、バスを持ち替えなければならないことだ。ちなみに使用楽器を書いておくと、
 1曲目:フルート
 2曲目:アルト・フルート
 3曲目:ピッコロ
 4曲目:バス・フルート
 5曲目:フルート
となっている。最後の5曲目は単独でよく取り上げられ、彼女は録音も行なっている。
練習曲というだけあって、さまざまな奏法を駆使した難曲である。いわゆる現代音楽なので聴きやすいとはいえないが、密かに今回の目玉ではないかと思っている。なかなか聴く機会のない曲なので貴重である。それにしても持ち替えは大変だろうなあと思う。
幽玄とした雰囲気のいい曲だ。5曲目以外は聴いたことがないので、演奏云々は言えないが、安定した技巧で吹ききったという印象だ。やはり深い音色が素晴らしい。技巧を感じさせない技巧も達人を思わせる。
終演後に訊いたら、全曲吹くのは今回が初めて、とのこと。
いいものを聴かせてもらった。

最後は大作、フランクのソナタ。これも名曲として名高いヴァイオリン・ソナタが原曲である。重厚で論理的な作風のフランクにしては珍しく美旋律満載の曲。
フルート・バージョンはずいぶん昔に聴いたことがある。しかし、今回のコンサート前には敢えて聴かないことにした。よって家で聴いていたのはオリジナルのヴァイオリン・バージョン。
やっぱりヴァイオリンの方がいいよね、と思われたら失敗である。
で、私はかつてそう思った。
原曲が有名すぎるだけに危険なプログラムとも言える。逆に、演奏者の手腕の見せどころとも言えるわけだ。
結論から言うならば、素晴らしかった。もともとフルート用の曲だと疑いを挟む余地のないくらいの完成度だった。憂いを帯びた音色で完璧に吹ききるのは爽快の一言。音自体に「Somethin' else」が乗っているので、音楽に説得力がある。
外面的な効果を狙わない内省的なアプローチだったように思う。歌心に溢れ、心に染み入ってくるような演奏だった。
空気の震える音。
もしかしたら彼女のフルートはコンサートホールよりも森の中といった大自然に包まれた環境の方が合うのかもしれない、などと思ってしまった。そのくらいスピリチュアルなのだ。

長いプログラムで疲れているだろうに、アンコールは3曲。
ドヴォルザークの曲は初めて聴いた。元々は弦楽三重奏で、それをヴァイオリンとピアノ用に編曲したのが正規版らしい。
バッハのパルティータは嬉しい。いちばん最初に彼女を聴いたのは「B→C」での全編無伴奏のリサイタル。もう8年くらい前になるか。そのときに聴いたバッハよりも格段に進化していたように思う。
そろそろバッハを録音してもいい頃じゃないかな?

デビュー10周年となる節目のコンサート。
10年の総括と今後の可能性を垣間見ることのできる充実した内容だった。
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