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2026年09月08日07:37

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小田真由『インフレ日本の安い賃金』(日経BP)

小田真由『インフレ日本の安い賃金』(日経BP)を読みました。
著者は、(株)小川製作所取締役だそうで、その会社は家業を引き継いだということのようです。家業の前はエンジニアであり、大学では経済学や経営学などを学んだわけではなく、理工学部のご出身です。
本書では、かなり的確にオーバースペックの問題を、そういった用語なしで、指摘しようと試みています。すなわち、売り手として安くてハイスペックな良い製品・サービスを提供する、という一方で、買い手としての価値の受け取り方が重要(p.006)と指摘しています。たしかにそういう面があるのは否定できません。でも、それだけではなく、本書ではたくさん見逃しているところがあります。
まず、本書の前半部分のエンゲージメントとか、幸福度は、経済学としてはほぼほぼ無視して差し支えありません。事実として確認しておけば、国際比較から明らかなように、日本人は仕事に対してエンゲージメントが低く、幸福度も低い、その大きな原因は低所得にある、という現実を本書では指摘しています。日本は先進国の中でも貧困が広がって、不平等・格差が大きい経済である点も強調されています。はい、その通りです。
労働者のお給料とGDPは連動していて、高い相関がある、というか、定義的に一部をなしていて、賃金の総計に資本所得を加えれば分配のGDPに等しいハズです。その上で、最初に戻ると、過剰スペックでアンペイドな部分が大きい、という指摘です。これも部分的に正しいかと思います。私のような教師に即していえば、「やりがい搾取」ということになります。児童・生徒・学生かわいさに、お給料が支払われない労働をやっている、ということです。教師だけでなく、そういった過剰スペックのための支払われないアンペイドな労働が少なくないのが日本経済の特徴のひとつです。
本書では、そういった点について第3-4章でラーメン屋さんを題材に議論しています。これも部分的には正しいと思いますが、それがすべてではないことには理解が及んでいないように見えます。第5章から指摘しているように、供給能力と需要ギャップもたしかにひとつの要因で否定はしませんが、第6章からの中小企業論となるともっと大きくスライスしています。例えば、p.160から始まる中小企業から日本経済の好循環をもたらす5つの理由については、最初のAI以外の4項目は、もう50年以上も条件として備わっていますから、ハッキリいって、今議論すべきなのは第1点目のAIだけしか残りません。ですので、最後は第6章で生産性を上げるとか、コストを適正に売値に反映させるとか、もう長らくいわれ続けてきたありきたりな処方箋しか提示できていません。具体性に欠ける点もあります。
私の直感ながら、ひょっとしたら、現在の日本の低賃金は主流派経済学ではなく、マルクス主義経済学で解明できそうな気がしています。絶対的あるいは相対的な剰余価値の生産です。アンペイドな労働があって、フルで受け取れなくなっている一方で、資本所得の方にはそれほどアンペイドな部分はなくフルで受け取っていて、したがって、労働分配率が低下し続けています。
そういった点は、最近の朝日新聞の記事「労働分配率、5年連続減 利益は過去最高 25年度法人調査」などのメディアの記事にも示されています。労働者にアンペイドな労働を強いる一方で、資本、特に大企業はガッポリ儲けているわけです。中小企業はアンペイドな労働に基づいてコストカットを強いられて、大企業の利潤の最大化に貢献させられているのではないでしょうか。
アンペイドな労働の存在という現状分析はよかったのですが、対応策である処方箋は基本的に間違っている可能性が高い、と私は考えています。

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