"Quantitative Easing and Government Debt Sustainability" と題するワーキングペーパーを読みまいした。政府財政のサステイナビリティが金融政策の量的緩和(QE)からどのような影響を受けるのか、について分析しています。
私が3年前に書いた紀要論文 "An Essay on Public Debt Sustainability: Why Japanese Government Does Not Go Bankrupt?" では、公的債務残高のサステイナビリティについてはドーマー方程式から、基礎的財政収支と成長率と金利の差、すなわち、動学的効率性から決まる、と結論しています。ものすごく単純にいえば、中央銀行が量的緩和(QE)政策を取って金利が低くなれば、公的債務残高のサステイナビリティは高まる、と考えていただけに、少しショックを受けました。
この論文で重要と考えるグラフは Figure 4. Steady states before and after QE となります。タイトル通りに、量的緩和(QE)の前後で公的債務残高のサステイナビリティが、理論モデルからどのように動くかを分析しています。量的緩和後には、安定均衡(Stable Steady State)が右へ移動し、不安定均衡(Unstable Steady State)が左へ移動し、結果として、デフォルト境界(Default Boundary)が内側へ移動してしまっています。つまり、量的緩和は短期的には金利を押し下げるとしても、長期的には財政の安定領域を縮小させるという結論を、このグラフはもっとも直感的に示しています。
続いて、Figure 5. Economic dynamics after QE では、動学的な経路が示されています。先の Figure 4. Steady states before and after QE が比較静学に基づいていましたが、この Figure 5. Economic dynamics after QE では、左上のパネルから始めて、(a) 量的緩和の直後は金利を低く抑えることが可能であるものの、(b) 量的緩和のための金利ペッグを維持するには、中央銀行の資産毀損が生じ、(c) 中央銀行資本の枯渇を加速させ、(d) 最終的には資金調達コストの急激な上昇を招く、ということが示されています。
このワーキングペーパーは理論モデルに基づいて、延々と離散系の差分方程式を解くことによって得られた結論を示しており、実際のデータに基づく実証的な研究成果ではありません。ですので、前提として、政府が基礎的財政収支の赤字を続けるとか、量的緩和によりきわめて直接的に中央銀行が資本を毀損して政府からの出資拡大は行われないとか、いささか現実性に疑問ある前提が置かれていたりします。そして、ワーキングペーパー本体で48ページ、Appendixが69ページ、あわせて119ページあり、Appendixのうち、延々と数学的な証明(Proof)を展開しているAppendix Cが60ページほどあって、そもそも、私が完全にこのワーキングペーパーの趣旨を理解したというまでの自信もありません。でも、Sargent and Wallace (1981) "Some unpleasant monetarist arithmetic" とも真逆の結論を導いており、少しショッキングであったことは確かです。
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