イアン・ゴールディン『移民は悪か?』(プレジデント社)を読みました。
著者は、英国オックスフォード大学教授であり、ご専門はグローバリゼーション、開発学のようです。本書の英語の原題は The Shortest History of Migration であり、2024年の出版です。英語の原題に比較して、どうしてこういう邦訳タイトルになったのかはまったく不明ですが、基本的に、移民の歴史をポジな観点から振り返っています。ボージャス教授の議論などとは違います。
全体で370ページほどのボリュームの2部構成になっており、序に続く第1部で270ページほどを費やして本来のタイトル通りに移民や移住の歴史を概観した後、第2部で100ページ足らずながら、移民や移住の経済効果ほかを分析しています。
まずそもそも、人類がアフリカから out of Africa したわけで、それが移住の始まりであることは確かです。ギリシア・ローマの古典古代から移住はありましたが、本格的には中世後期から始まるという本書の見立てには、どこまで同意するかは歴史の見方によります。本書では、中世後期のセファルディの追放によるユダヤ人のディアスポラあたりを念頭に置いているようで、その後のアフリカから米州大陸などへの黒人奴隷の強制的な移住、あるいは、流刑先への移住なども視野に含めています。
ただ、そういった宗教的観点や経済的インセンティブあったとはいえ強制的な移住はともかく、エコノミストとしての私の観点からは、やっぱり、本書の第7章の19世紀半ばからの米州大陸への集団移住以降が重要と考えています。南北米州大陸への集団移住と同時期に、中国人の海外移住も大規模に始まっており、本書ではそれほど大きく取り上げてはいませんが、日本語の「華僑」という言葉に示されているように、世界のいくつかの都市でチャイナタウンが出来たりしているのは広く知られている通りです。
そして、本書でも指摘しているように、20世紀初頭の第1次世界大戦まで国境という概念はそれほど強いものではなく、国際法に基づくパスポートは一定普及していたとはいえ、国境を越境する移動や移住への制限はかなり緩やかであったと考えられます。それが、20世紀初頭の第1次世界大戦で一変したことは本書でも強調している通りです。
第2部では第12章と第13章の移民と経済の問題がどうしても中心的なトピックとなります。私自身も remittances の問題を "An Essay on Remittances Effects to Economic Development: A Survey" と題する紀要論文を取りまとめたことがありますが、本書でも、古代中国の送金システムである「飛銭」を紹介したりしています。
移民や移住に関してはいくつかの観点から賛否あることと思いますが、多様化が進むことだけをとっても経済的に悪いことではないと本書では指摘しており、私も同意します。その移民や移住の歴史を本書はコンパクトに取りまとめています。
ログインしてコメントを確認・投稿する