この日をどれだけ待ち侘びたことか。
三浦友理枝ちゃんの譜めくり担当として見たのが最初だった。
そのうち友理枝ちゃんに英国王立音楽院の同窓でヴァイオリニストだと紹介された。
それから話をするようになり、リサイタルをするときは教えてくれるようにと伝えていた。
知人によるとオケのヴァイオリンにはよく乗っているらしい。
いつも黒いスーツで(譜めくりという黒子なのだから当然だが)、小柄で、カッコいいおねえさん、という印象だ。
どんな衣装なのか。
どんなヴァイオリンを弾くのか。
楽しみでしかたなかった。
演奏を聴く前から、馴染みの演奏家だったんだよね。
ピアニストに友理枝ちゃんを起用したのは必然だろう。
プログラムを見て確信した。
ルクーにエルガー、凄い曲を並べてきた。
柿沼麗子:ヴァイオリン
三浦友理枝:ピアノ
01.トゥルニエ:2つのロマンティックな前奏曲 Op.17
02.イザイ:アンダンテ
03.ルクー:ヴァイオリン・ソナタ ト長調
<休憩>
04.ヘンデル:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 イ長調 Op.1-3
05.クラーク:ミッドサマー ムーン
06.エルガー:ヴァイオリン・ソナタ ホ短調 Op.82
<アンコール>
07.エルガー:オッフェルトワール(奉献歌)
まずはラベンダー色あるいは藤色のドレスで登場。
トゥルニエは今はハープ曲の作曲家として知られている。
この曲ヴァイオリンとピアノ(あるいはハープ)のための曲だそうだ。
暖かみのある音色に驚く。高度な技巧に裏付けられた音色だということがわかる。
続くイザイの遺作とされる作品。
技巧よりも抒情性を感じる良い曲だ。ヴァイオリンの鳴りが良い。
24歳という若さで鬼籍に入ったルクーの傑作ソナタ。
循環形式を用い、抒情性と激しさとがうまく噛み合ったこの曲が大好きだ。
ことに第2楽章中間部は美しさが際立っている。このピアノは友理枝ちゃんに合うだろうなと思っていた。
哀切極まりないピアノに乗せてヴァイオリンが囁くように歌う。これだけでルクーが天才だということがわかる。
凄まじいまでの名演だった。
切々とした抒情性と、胸を掻きむしられるような激しさ。
ボディがしっかりしているので決してひ弱に聴こえない。技巧的な不安もない。静と動のコントラストが見事だ。
そしてこの名演はやはり友理枝ちゃんのピアノあってこそという気がする。思っていた通り、彼女のピアノがこの曲に合う。
ずいぶん抑えたタッチのように思えたが、事実そうだったらしい。
前半を終えて、凄いヴァイオリニストだったんだねえ、という印象。
後半は白と黒のモノトーンのドレスにお召替え。
ちょっと意外なヘンデルから。
メロディーの魅力に全て委ねたような誠実で美しい演奏。
クラークという作曲家は初めて知った。女性だそうだ。ヴィオラ奏者だったらしい。
20世紀作品だが、明確なメロディーがあり、聴きやすい。静謐な印象。映像を喚起するような音楽だ。
メインはエルガーのソナタ。
これまた難曲。エルガーらしいロマンティックで劇的で曲。技術的にも破綻なく弾くこと自体が難しそうだ。
イギリス留学の二人にとってエルガーをやらないという選択はなかったのだろう。
これもまた凄みすら感じさせる名演だった。
厳しくも優しい。
アンコールもエルガー。
全く有名でない曲だが、これもまた美しいメロディーを持った曲である。
いやはや、凄いヴァイオリニストでした。
終演後お話をすることができた。
友理枝ちゃんによると、この2か月ほかの仕事を入れずに取り組んでいたのだそうだ。
そのくらい大変だったということだろうし、それだけ気合が入っていたということだろう。
特にルクーには苦労したらしい。ピアノとヴァイオリンの音のバランスが難しかったのだそうだ。
やはりかなり抑えて弾いていたらしい。
会場によっても変わるし、柿沼さんの立ち位置によっても変わったらしい。音楽は生き物なんだな。
友理枝ちゃんがいつもよりハイだったのが印象的だった。
柿沼さんもいい笑顔だった。
やり遂げた達成感があったのだろう。
われわれが聴きに来たことを喜んでくれて、こちらも嬉しい。
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