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2026年04月19日07:38

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山口未桜『白魔の檻』(東京創元社)を読みました

山口未桜『白魔の檻』(東京創元社)を読みました。
著者は、医師なのですが、前作『禁忌の子』が第34回鮎川哲也賞を受賞してミステリ作家としてデビューしています。
本作品は、前作と同じ兵庫市民病院の城崎響介医師が謎解きをするミステリです。とはいうもの、主人公は春田芽衣です。前作の『禁忌の子』でも城崎と同じ病院に勤務する救急医の武田航が主人公でしたから、同じような構成といえます。その救急医の武田は第1章冒頭でチラリと登場します。
春田は27歳の研修医なのですが、城崎といっしょにへき地医療協力で1か月北海道の更冠病院に派遣される、という舞台設定です。そこで、3人ほど死ぬわけです。第1に、春田が埼玉に住んで中学生のころまでやっていたバスケットボールのコーチだった病院事務職員の九条環が病院地下の浴室で倒れて、硫化水素中毒で亡くなっているのが発見されます。更冠病院に居合わせた更冠町長の村山幸蔵や病院長の八代大吾は事故であると主張しますが、城崎は殺人と見抜きます。第2に、病院長の八代が殺されます。首を切断されていますので、明らかに殺人です。第3に、更冠病院での分娩の際に娘と孫を亡くした老女の源佳代が拳銃でこめかみを撃ち抜かれて亡くなります。
この3つの事故だか、事件だかを城崎が最終第6章冒頭で春田を相手に謎解きを繰り広げる、ということになります。しかも、更冠病院周辺で大きな地震があって外部と連絡が取れなくなった上に、土砂崩れや硫化水素ガスが溜まるなどにより病院が孤立してクローズド・サークルと化してしまいます。
もちろん、ミステリですので詳細は読んでみてのお楽しみです。なのですが、謎解きそのものはかなり論理的で、少なくとも頭の回転の鈍い私には瑕疵はないように見受けられた一方で、ミステリとして、また、トリックとしては私の評価は決して高いものではありません。批判したくなるのは少なくとも3点あります。
第1に、地震や硫化水素ガスなどの天然自然の外的かつ偶発的な要因が多すぎます。プロバビリティの犯罪というのもありますし、硫化水素ガスはそれなりに必要そうな気もしますが、ムリにクローズド・サークルにしているように感じてしまいました。第2に、医療行為があるのはいいのですが、医療用語が過剰に用いられています。医療関係だけではなく、説明が明らかに過剰です。ですので、読みにくく、かつ、原稿料目当ての文字数稼ぎか、との疑いまで引き起こしかねません。第3に、論理的な謎解きよりも、医療や過疎の問題などが前面に出過ぎで、それが殺人やほかの犯罪行為を免責しかねない読み方を許容するおそれすらあります。
悪いやつなら殺してもいいのか、というのもありますし、私がもっとも不適切に感じたのは、主人公の春山の独白部分だと思うのですが、p.84で「人間はどうして、死に方を選べないんだろう。意思さえあやふやなまま横たわっている人たちが幸せだとは、どうしても思えない。」というくだりです。ちょうど10年前の2016年7月に起きた相模原市の津久井やまゆり園事件を思い出してしまいました。そして、作者の本職である医師をひたすら美化している部分も少なくありません。
かつて、松本清張が社会派ミステリ作家として活躍していたのとは、この作者は大きく違うと感じるのは私だけなのでしょうか。
最後の最後に、あくまでついでながら、病院が陥った客観的状況を患者に隠すというエリート・パニックな行動というのも、今どき現実的かどうか、という疑問もあります。

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