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2013年02月04日22:53

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里村典子のこと

彼女と初めて出会ったのは中学三年のときだった。
そのとき彼女はずいぶん大人のはずだったが、自分とたいして変わらぬ年のように思えた。だからというわけでもないのだろうが、そんなに強く印象に残ってはいないのだ。
だけど里村典子という名前はずっと覚えていた。

というわけで、横溝正史『八つ墓村』読了。
金曜から読み始めて、土日のちょっとした空き時間で読んでいたら、思いのほか速く読み終わってしまった。初読でないからということもあったかもしれない。それでも、500ページ近い大長編を一気に読ませるのは作者の語り口の上手さだろう。

落武者伝説の残る山間の村、そこで26年前に村の有力者が32人を惨殺するという事件が起こる。そしてまた彼の息子が村に帰ってきたとき、連続殺人事件の火蓋が切られた。
映画化の際の「八つ墓村の祟りじゃ〜」というキャッチフレーズを覚えている人も多いことだろう。鉢巻に懐中電灯を二本差し、片手に猟銃、もう片方に日本刀という狂気の沙汰のような殺人鬼の格好も衝撃的だった。

実は私は『八つ墓村』をあまり高く評価していなかった。
あの頃は純粋な本格ものが好きだった。これは金田一耕助ものではあるが、主人公による一人称記述型なので、金田一の登場場面が少ない。必然的に事件の分析は後回しになってしまう。あの当時は稀代の名探偵に挑むように謎を解くのが好きだったのだろう。それゆえ、一人称記述型は苦手だったのだと思う。確かに『八つ墓村』は本格謎解きものではあるが、冒険小説的なおもしろが前面に出ている。

今回久々に読み直してみて、『八つ墓村』は傑作であると認識を改めた。
古の伝説、過去の凄惨な事件、閉鎖的な村、双子の老婆、村の地下に張り巡らされた鍾乳洞、など横溝作品らしい怪奇趣味にも事欠かず、犯人探し(フーダニット)としてもよくできている。さらにあっと言わせる大トリックも用意されている。

さて、『八つ墓村』は主人公を巡る3人の女性の物語でもある。
村のもうひとつの有力者の縁続きでもある美貌の森美也子、主人公の姉で病弱の田治見春代、そして主人公の従妹にあたる少々知恵の遅れた里村典子。
横溝ファンの間では里村典子は三大ヒロインのうちの一人と言われているようだ。
『本陣殺人事件』の一柳鈴子、『車井戸はなぜ軋る』の本位田鶴代と並ぶ存在だと言うのだ。
なるほど、楽天的でまっすぐで一生懸命な典子はとても好感度の高い女性だ。しかし、主人公は初めて彼女を見たとき「醜い女」だと酷い印象を抱いている。鈴子や鶴代と異なり、彼女については明確に容姿について書かれているのだ(主人公視点ではあるが)。それでも典子はどんどん綺麗になっていったという記述もある。ちなみに典子は少女ではない。主人公とさほど年の変わらぬ20代半ばである。その言動から幼く見えるだけなのだ。
典子は主人公のことを「お兄さま」と呼ぶ。主人公に感情移入して読み込むタイプの人には、妹萌えでなくても「お兄さま」と呼ばれるのはたまらんだろう。ってなんのこっちゃ。

さて、あなたは誰を選ぶ?

都会的な美人だが未亡人の美也子。
控えめな美人っぽいが、体が弱くそれが理由で嫁ぎ先から離縁された春代。
純真無垢で天真爛漫だが少々オツムに難あり(?)の典子。

典子もいいけど、春代の一途な優しさにも惹かれるなあ。。。

鈴子が大きくなったら典子のようになっていたのではないか、と言われることもあるようだが、それはちょっと違うように思う。
鈴子は少女というよりも童女に近い。その言動は17歳という年齢よりも相当開きがある。しかし、典子は幼くはあるが、言動もしっかりしている。なので、なんら劣るところはないように思える。
つまり、典子はこちら側の人間。『車井戸はなぜ軋る』の鶴代も体が弱いだけで聡明なのだからこちら側の人間。唯一鈴子だけが浮世離れしたところに位置しているのだ。此岸と彼岸の狭間に生きていると言えばいいだろうか。

結局おまえは鈴子派なんだな、ってかあ。
まあいいではないか。

ところで、この里村典子、非常に不憫なヒロインである。
というのも、映像化の際にことごとく存在を消されているのだ。軽んじられているのではない。初めからいなかったことにされているのだ。
確かに『八つ墓村』という話は登場人物が多く、関係が入り乱れているので、時間の制約のある映像作品では簡略化したいというのはわかる。
しかしなあ、この話のヒロインの一人だよ。カットしちゃあダメだろう。
美也子、春代、典子、三人揃ってこそ『八つ墓村』ではないか。
小竹・小梅の双子の婆さんだって重要だけど、この三人が揃わなきゃ華がないだろう。
と思って気が付いた。
典子がいなくても話の大筋は成立してしまうのだ。
ちなみに、映像化作品には細かい点だけでなく、犯人や動機まで原作と違うというものが少なくない。なので典子をカットししまうことくらいなんてことはないのかもしれない。
鈴子とは大違いだ。鈴子は原作でも重要な役割を担っているが、映像ではより重きを置かれている。

里村典子、いちばん薄幸なヒロインかも。

しかし、改めて言うのもなんだが、横溝正史はすごいね。
今回の再読シリーズのテーマは「ヒロインで読む横溝作品」。
ということで、次は古神八千代の『夜歩く』にするか、戸田京美の『白と黒』にするか。
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