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2012年08月30日22:54

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オーダーメイド殺人クラブ

辻村深月の『オーダーメイド殺人クラブ』を読んだ。今年めでたく直木賞を受賞したが、これは昨年の候補作である。
本自体はずいぶん前に買っていたのだが、読むのを後回しにしていた。理由は簡単。ハードカバーの本は持ち歩くのに重いからだ。

これが直木賞でもよかったのではないかと思う。
もちろん受賞作『鍵のない夢を見る』の無駄のなさというのは素晴らしい。小説的技巧という点と新境地という点で評価されたのだろうと思う。考えようによっては『オーダーメイド殺人クラブ』でも受賞できなかったということは、さらに期待が大きかったとも言えるのだろう。

地方の中学二年生、リア充少女小林アンは自分は誰にも理解されていないと疎外感を抱く。昆虫系とバカにしていた男子の徳川に自分と同じ闇を感じた彼女は、とあるきっかけから「私を殺して」と彼に持ちかける。そして二人はかつてなかったような衝撃的な事件を起こすべく計画を立てていく。

この小説(というか辻村作品の多くに少なからず言えることだが)は一般的な意味でのミステリーではない。むしろ複雑で不条理で多感な時期を描いた青春小説である。もっとも、青春小説という字面としては恥ずかしくなるような能天気さとは逆にとても暗い内容ではあるが。
もちろん、細かな謎はいろいろ散りばめられているし、巧みな伏線も張られている。
そして、母親が『赤毛のアン』のファンだからという理由で純粋日本人なのにアンと名付けられた小生意気な少女が主人公の少女小説でもある。

話はそれるが、能天気ではない青春小説というとサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を思い出す人も多かろう。疎外感を抱き世間と折り合いをつけられない主人公としてホールデン少年のインパクトは強烈だ。しかし、ホールデン少年はヒーローなのだ。対世間ということでは立ち位置はあやふやだが、自身の考えはしっかりしている。見た目のカッコよさや肉体的な強さはないにせよ、ヒーローたりうる存在なのだ。

しかし、アンは違う。
アンにはイライラさせられる。自分を取り巻く世界をバカにしつつ、それなしでは生きていくことができない。その足元の覚束なさにイライラさせられるのだ。
それが今の時代ということなのだろう。全てが不安定。世界を構成するもの全てが脆く壊れやすい。
アンにはイライラさせられる。それは彼女に自分を(あるいはかつての自分を)見るからだ。なのでイライラさせられても(いや、イライラさせられるからこそ)目が離せない。放っておけないのだ。
このあたりの作者は上手い。さすがである。

私はこれを読んで押見修造のマンガ『惡の華』を思い出した。

そして、何より近いのは同じ辻村作品の『凍りのくじら』だろう。
主人公の理帆子とアンはよく似ている。もっとも、あやふや加減はアンの方が上を行っているが。
どこかファンタジーっぽい『凍りのくじら』と痛いほどにリアルな『オーダーメイド殺人クラブ』という違いによるのかもしれない。

ミステリーでも青春小説でも少女小説でもいいが、評価が分かれる作品だろう。
エピローグのように添えられたエンディングも賛否ありそうだが、私はこれで良いと思う。

話の中で『臨床少女』という写真集が出てくる。球体関節人形の写真集という設定だ。その中の1枚にアンは理想の死の姿を見る。
球体関節人形作品には人間をモデルにしたのではありえない設定が多い。人形であるがゆえに生々しいとも言える。今や球体関節人形もアートの重要な一分野を成している感がある。
人形作家は誰か、そんなことを想像してみるのもおもしろい。恋月姫か森馨か、はたまた少し前の三浦悦子か、吉田良や陽月でもいいかもしれない。

ちなみに、本のカバーの印象的な絵は上田風子(うえだ・ふうこ)の『夜明け』である。
少女を描く現代画家として最高レベルのうちの一人と思う。昨年に個展を観た印象もまだ新しい。この絵は個展でも飾られていた。もちろんうちには彼女の画集がある。

しかし、辻村作品にはハズレがない。
まだまだ化けるだろう。
そして、近作の完成度の高さをすごいと思いつつも、大仕掛けの大どんでん返し大会の作品にも期待したいという気持ちもある。
いずれにせよこれからも注目すべき作家であることは間違いない。
受賞第一作がどんなものになるか楽しみである。
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