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2010年02月21日23:00

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モーツァルトのフルート協奏曲

子どものころからやっていたから、フルートという楽器には思い入れがある。
だからフルートを嫌っていたというエピソードが残っているモーツァルトを好きになれなかったのかもしれない。まあ、それは半分冗談にしても、若い頃はモーツァルトが苦手だった。それは確かだ。喜びや悲しみといった情感の上澄みを掬い取ったかのような音楽は、ある意味眩しすぎたのだ。別の言い方をすれば、淡白に感じられたということでもあるだろう。
血気盛んな若い頃にはそう聴こえるものなのかもしれないと思う。モーツァルトのよさがわかるにはある程度年齢や経験を重ねる必要があるのではないだろうか。若くしてモーツァルトが好きだという人はきっと純粋な人なのだろうと思う。
もっとも、今でもモーツァルトを好きな作曲家と言う勇気はない。だいいち知っている曲は膨大な数の中のごく一部。失礼を承知で言うが、天才と認めるのにやぶさかではないものの、若書きの作品にはあまり魅力を感じない。それでも最後の方のシンフォニーや20番以降のピアノ・コンチェルトやいくつかのピアノ・ソナタなど、好きな曲は多い。30代のモーツァルトという限定であれば、好きな作曲家と言えるかもしれない。

モーツァルトの2曲のフルート・コンチェルトは掛け値なしの名曲と思う。第2番は自身のオーボエ・コンチェルトの編曲ものだとしても、フルートが嫌いでこれほどの曲が書けるものだろうか。ことに第1番は魅力的なフレーズがこれでもかと言わんばかりに出てくる。モーツァルトの言葉を額面どおり受け取ってはいけないのではないか。最近そんなふうに思う。

フルート奏者にとっては重要なレパートリー。よって多くの録音があり、優れた演奏が少なくない。先日、魅力的な盤が一枚加わった。
フルート独奏は高木綾子。
久々の新譜である。結婚&出産を経て、もはや嬢ではなく女史と呼ばなくてはならなくなった。さらに、知らない間にavexに移籍していた。今、若手の中では随一のフルーティストだろう。
とにかく音が美しい。それも単に綺麗だというのではなく、深く重みがある。ことに中低音のボディのしっかりした音色がとても魅力的だ。温かみのある高音も耳に優しい。昨今はきらびやかで軽めの音のフルートが主流となっている感があるが、そうした風潮の対極を行くものだと言えよう。初めて聴いたときからその音色に惚れ込んで、ずっと聴き続けている。彼女のフルートはドイツのヘルムート・ハンミッヒ制作のもの。重厚で渋い音が出ることで知られる。当時、若い女性が選ぶとは、と驚いたものである。もちろん、楽器の性格がそうだからといって、誰が吹いてもそうした音が出るかというと、もちろんそんなことはない。ドイツにいたときに試奏する機会があったが、むしろ扱うのが難しい楽器との印象が残っている。楽器が奏者を選ぶ、ということなのではないかと思う。
そんな彼女のモーツァルトのコンチェルト。
さらに丸みを帯びた音色が魅力的だ。歌心の豊かな演奏だと思う。細かいところまで目が行き届き、なおかつ全体を俯瞰して曲を捉えている、といった印象だ。溌剌としつつも、浮ついたところはなく、ときおり覗かせる切なげな表現がなんとも美しい。
第2番と付録のアンダンテでは自作のカデンツァを披露。これも聴きどころとなっている。
金聖響&オーケストラ・アンサンブル金沢のサポートも過不足なく盛り立てている。少々マジメすぎて、ややスクウェアな感はあるが、崩しすぎるよりはいいだろう。

さて、今までの私にとってのベスト・ディスクはオーレル・ニコレの盤。デヴィッド・ジンマン&コンセルトヘボウ管のサポートを得た78年の録音。
当時ジャン=ピエール・ランパルと人気実力ともに二分していた。華やかなランパルに対し、端整なニコレというイメージで伝えられていたような気がする。たびたび共演していたようだから、意外に仲がよかったのかもしれない。
私にとってニコレは神様のような人だ。ことにバッハの演奏に関しては超えるものがないのではとさえ思う。そしてモーツァルトも素敵だ。温かみのある深い音色、その優しい音に包まれるのは至福のときだ。おそらく今後もその価値が減じることなどないだろう。
ちなみに、ニコレは武満徹と親交が深かったことでも知られる。武満の最後の作品『エア』はニコレに捧げられたものである。

要は高木綾子女史とオーレル・ニコレは音色が似ているのである。
つまり彼女のフルートを気に入るのは必然だったと思うのだ。

そろそろバッハのフルート曲の録音を期待したい。avexに移籍したということで、その際は曽根麻矢子女史のチェンバロでお願いしたい。
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