小砂川チト「ゾンビ回収婦」(『文藝春秋』収録)を読みました。
著者は、小説家であり、この作品はいうまでもなく第175回芥川賞受賞作品です。表紙画像を示している通り、私は単行本ではなく全文収録されている月刊『文藝春秋』2026年8月号で選評とともに読みました。
ストーリーは、もう広く報道などで明らかな通り、8年勤続したにもかかわらず、年末師走の12月にAIに仕事を奪われて、夫とともに解雇された女性が、VRの世界で口唇期ホテルなるところで、NPC(NonPlayer Character)としてゾンビ回収婦を始める、というものです。ついでながら、夫の方は演奏旅行に出るといっていなくなってしまいます。
はい、ストーリーは一向に進まず停滞します。選評で山田詠美は「スローダウン」と表現しています。SFテイストともいえますが、典拠は示せないながら、誰かが「ハイパーパンク小説」と呼んでいた気がします。ただ、選評で吉田修一が「クレーム小説」といっています。
私は何度か表明しているように、雇用を重視し、国民がディーセントなお給料でやりたい仕事に就くのが、経済政策の最大の目標のひとつだと考えるエコノミストですが、この作品では冒頭に「労働といういち文化が終わった」と高らかに(?)宣言していたりします。はい、AIに仕事を奪われて失業すると、そうなのかもしれません。
他方で、ロバート・キャパの言葉だったと記憶しているのですが、「私は大喜びで失業した従軍カメラマンとなり、生涯、失業したままでいたいと願っている」"I hope to stay unemployed as a war photographer 'til the end of my life." というのもあります。まあ、職業により失業の捉え方も違うのでしょう。
ストーリーは停滞し、主人公は延々とゾンビ回収婦の仕事をゲーム内で続けるのですが、余りにも主人公がそれに適応・順応していて、私は読み進むうちに、現実世界と間違えてゲームであることを忘れてしまうほどでした。逆から考えると、現実感が失われているような気がします。前任者のグッドニュースさんと間違えられたり、アラスカやサラトガといった固有名詞の人名や地名が登場して、ゲームなんだと実感させられます。
最後に、エコノミストの読者に戻って、「働かざる者食うべからず」ということわざが出てきます。働かなくてもお金がもらえるベーシックインカムが小説で登場するのは、まあ、もっと先のお話なんだろうと思ってしまいました。
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