あをにまる『奈良千夜一夜』(角川書店)を読みました。
著者は、小説家なのですが、Xアカウント「卑屈な奈良県民bot」の1人ではないかと私は想像しています。このbotのツイートには、この著者の見方がいくぶんなりとも反映されているような気がします。それとも、奈良県民って、みんなあんな調子なんでしょうか?
それはともかく、前作『今昔奈良物語集』も本作品と同じように古典や都市伝説に典拠したパロディ短編集で、奈良への屈折した愛と、卑屈なユーモアが炸裂しています。もちろん、私は読んでいます。
実は、私は大学を卒業して就職するまで、一貫して京都府民でしたが、中学・高校と奈良市内の私立男子単学の進学校に6年間通っていました。当時は大仏殿の近くにありましたが、今では移転しています。ですので、長らく公務員生活を送ってきた東京とともに、また、生まれ育った京都とともに、中高6年間学んだ奈良には詳しいと自負しています。
収録されている短編は5話あります。順に、まず、「金の小野」はイソップ童話の「金の斧」のパロディです。別れ話で口論となり、女子大生の木原霧江は付き合っている小野鉄明を奈良公園近くの猿沢池に突き落としてしまいます。すると池から奈良時代の采女装束の女が現れ、「あなたが先ほど落とした彼氏は、――」と聞いてくるわけです。
続いて、「私メリーさん、今から奈良県十津川村へ行くの」は都市伝説の「今、あなたの後ろにいるの...」のパロディです。グラフィックデザイナーをしている主人公は、フリーランスへの転身を機に奈良県十津川村へと移住し、東京のワンルーム暮らしとは別世界で、のんびりとした生活を楽しみ始めています。その矢先、スマホに非通知の着信があり、「私メリーさん。いま、東京駅にいるの」から始まり、徐々に近づいてきます。電話の主は一体誰なのか、謎が深まります。
続いて、「シンデラレン」では、冴えないホテルマンの新出礼助は、冷え切った夫婦仲の妻と父親を小馬鹿にして無視しがちな高校生の娘と暮らしています。散歩していた東大寺大仏殿の東側に「猫段」と呼ばれる石段があって、ここで転んだ人間は猫になってしまうという伝説があり、実際に、新出礼助は転んで猫になってしまいます。
続いて、「逆杜子春」では、主人公の御子柴俊春は筋金入りのミニマリストでシンプルな生活を望んでいるのですが、親から経営を受け継いだ工務店が彼の経営手腕により中堅ゼネコンまで企業規模を拡大してしまい、ミニマリストの生活を実践できません。社長という立場が彼の理想を妨げるわけです。ある日、藤原宮跡で出会った僧侶のような老人が、理想の暮らしを叶える方法を教え、「今日の午後3時ちょうどに、お前はきっと、お天道様の下に立っとるはずや。そのとき、自分の影の頭に当たる場所を、思いっきり掘れ」と告げます。そうすると、一度は社長を引退する出来事に相成りますが、結局、社長に返り咲くことになってしまいます。
最後に、タイトルの「千夜一夜」=アラビアンナイトとはほとんど関係ないような古典や都市伝説に準拠していますが、とても、素晴らしい出来のパロディです。奈良について詳しくなくても、猿沢の池や東大寺大仏殿くらいは見聞きしている人は少なくないと思います。その意味でも、とってもオススメです。
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