ヘンリー・ジー『人類帝国衰亡史』(ダイヤモンド社)を読みました。
著者は、科学雑誌「ネイチャー」の編集者であり、現在は生物学シニアエディターを務めています。ご専門は、古生物学および進化生物学だそうです。前著の『超圧縮 地球生物全史』が話題となりましたが、不勉強にして私は未読です。本書の英語のタイトルは The Decline and Fall of the Human Empire であり、2025年の出版です。
本書はプロローグの後、3部構成になっており、台頭、凋落、脱出とそれぞれ題されています。ということで、本書では、タイトル通りに、人類のこの先の、というか、もうすでに始まっている衰退について考えようとしています。はい、私も人類は衰退途上にあり、その大きな要因は、地球上で超絶トップの生物となったからである、と考えています。本書とよく似た思考だという気はします。
本書では、私の直感をさらに生物学的に補強し精緻化して、ホモサピエンスが過去の人口激減などもあって、遺伝的多様性が失われ病原菌などへの耐性にも問題を生じた、と考えているようです。ただ、本書第10章にもあるように、すべての生物種は滅びるわけで、恐竜のように小惑星の衝突という外的要因もあれば、おそらく人類がたどると考えられている内的要因もあります。
本書では、進化の分化が人類生き残りのひとつのカギとしつつも、それほどの時間的な余裕が残されているとは限らない、とも指摘しています。ですので、第3部の脱出編では、プロローグの最終部分で示唆されているように、その名の通りに脱出して人類が生き延びる道を考えようとしています。このあたりの詳細は読んでみてのお楽しみです。
ただ1点だけ指摘しておくと、脱出は絶滅の時期を遅らせるだけで、結局、最後は人類も滅びることが避けられないと覚悟すべきです。ですので、本書でも参考とすべき部分は過去と現在であり、第1部の台頭編でやっぱり二足歩行が最大のホモサピエンス成功の要因であるとか、第2部の凋落編で定住と農耕から始まる凋落の歴史で、日本が凋落のトップランナーとなっている国であるとか、そういった過去ないし現在の歴史からの分析が重要そうな気がします。脱出は、やや荒唐無稽な気もします。
同じような荒唐無稽なストーリーで考えるとすれば、脱出よりもむしろ従属、というか、AIが進歩しまくって、私の従来からの説のように人類がAIのペットになって生き残りを図る方が、まだ現実味があるんではないか、という気がします。
最後に、私は注なども含めて、かなりていねいな読書をする方だと自認しているのですが、海外のこういった科学書に比べて、典拠となる注がそれほど充実していないという印象を持ちました。例えば、エコノミストとして気にかかるところで、p.208で日本の人口が2100年には5972万人に半減するにもかかわらず、GDP規模は3位から4位にわずかに後退するだけ、といった記述が見られます。私が授業で教えているところによれば、21世紀半ばですら日本のGDP規模はもっと後退します。日本経済研究センターの長期予測に基づく日経新聞の記事「日本を待つ『転落の50年』」では、2050年で6位、2075年で11位と報じています。ただ、本書の2100年で世界4位には注もなく、まったく根拠は示されていません。やや物足りなさが残りました。
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