砂原浩太朗『藩邸差配役日日控』(文春文庫)を読みました。
著者は、時代小説作家であり、私は『高瀬庄左衛門御留書』と『黛家の兄弟』を読みました。でも、葉室麟作品のような華やかさ、というか、エンタメ性に欠けた作品で、最近は読んでいませんでした。
本書は単行本からすでに文庫本化されており、私はその文庫本を読みました。すでにシリーズ第2弾の『星月夜』も単行本で出版されています。
本書は連作短編が5話収録されています。まず、本書の舞台は徳川期の江戸であり、主人公の里村五郎兵衛は、代々、神宮寺藩7万石の江戸藩邸の差配役を務めています。タイトル通りなわけです。主人公が常駐する上屋敷は本郷にあります。今の本郷にある東大キャンパスは、赤門が残っているように、その昔の加賀前田藩の上屋敷でしたので、場所柄は同じようなものです。ただし、主人公は常駐している上屋敷だけでなく、中屋敷や下屋敷にも出向くことがあります。差配役とは、今でいえば総務部総務課長のような役どころとされていて、藩邸内の「なんでも屋」と揶揄される時もあったりします。
どういった働きをするかといえば、最初の短編「拐し」では、藩主の世子である亀千代ぎみがお忍びで上野の花見に出かけたところ、行方不明になってしまいます。江戸家老の大久保重右衛門からは「むりに見つけずともよいぞ」と言われてしまいますが、もちろん、里村五郎兵衛は副役の野田弥左衛門や下役の安西主税らとともに必死で探します。続いて、「黒い札」では、皿や椀などの奥向きの調度を納入する商人を選ぶ入札で不審があり、入札をやり直したりします。続いて、「滝夜叉」では、里村五郎兵衛が不在の折に副役の野田弥左衛門が口入屋から雇い入れた女中の滝夜叉こと、お滝をめぐる騒動が持ち上がります。
続いて、「猫不知」では、藩主の正室であるお熙の方の愛猫の万寿丸が姿を消したため、差配役の里村五郎兵衛以下で屋敷の内外を探し回ります。このあたりから、江戸家老の大久保重右衛門と留守居役である岩本甚内の2人による藩内の派閥争いが激化し、お世継ぎを誰にするかを含めて、いかにも時代小説らしいお家騒動が始まります。最後の短編「秋江賦」は短編中でもっともボリュームがあり、病気で上府がかなわなかった藩主の和泉守正親が江戸にやって来て、お家騒動が決着します。
5話の短編が強くリンクし、それぞれにさまざまな伏線がばらまかれていて、最後にそれらが回収されます。とてもよい構成の時代小説でした。でも、繰返しになりますが、葉室作品のようなエンタメ性には欠けます。エンタメ性には欠けると言っているものの、私は本シリーズの次作も読みたがるような気がします。強くします。
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