小川哲『火星の女王』(早川書房)を読みました。
著者は、ミステリ作家、エンタメ小説作家なのですが、広く知られたように『地図と拳』により第168回直木賞を受賞しています。私は『地図と拳』やアンソロジーに収録された短編やショートショートのほかに、『君のクイズ』も読みました。
本書はタイトルから直感的に理解できるように、火星を舞台にしたSF小説です。加えて、というか、何というか、昨年2025年にNHKでドラマ化されています。原作小説をベストセラーにしてしまう映像化の威力は、吉田修一『国宝』でまざまざと見せつけられたところです。
タイトルに関して2点だけ、まず、女王とはいってもエドガー・ライス・バロウズの大昔の『火星のプリンセス』のように、火星に君主国家があるわけではありません。次に、英語のタイトルの Mars に定冠詞をつけるべきではないか、と私は思ったのですが、『火星のプリンセス』にも定冠詞なしの Mars が使われていて、何となく納得してしまいました。
本書に戻ると、舞台は火星で地球からの植民が始まって40年が経過し、レアメタルなどの採算性がよくなくて、そろそろ火星から撤退の話も出ています。
物語の主人公、というか、何人かが視点を提供しますが、主要には2人で、地球外知的生命の探求のため火星にやってきた生物学者のリキ・カワナベと地球に観光に行く希望を持っている火星生まれの学生リリ-E1102です。ほかに、惑星間宇宙開発機関(ISDA)、火星の自治警察、ホエール社などの組織があって、それに所属している人物も視点を提供します。ISDA種子島支部の職員である白石アオトと火星自治警察の女性捜査員であるマル-G4131です。
カワナベは生命体ではないハズレの鉱物であるスピラミンという物質の結晶構造がシンクロして変化することを発見します。これが、いろんなことに応用できて、武器にもなるらしいのですが、そのあたりの科学的な解説は私には十分には理解できませんでした。リリは光を失って盲目なのですが、地球に観光に行く希望を持っており、それに必要な地球重力適応証(CEGA)を得るために遠心型人工重力施設に通っています。
スピラミンを使って火星の地球からの独立を目指す運動が始まったり、その余波を受けてリリが誘拐されたり、いろいろと事件が起こります。火星の女王に擬されるのはリリなのですが、そのあたりの詳細は、結末とともに読んでみてのお楽しみです。
SFであることは間違いないのですが、技術的な観点ではなくヒューマンドラマの要素が強い小説です。だからこそ、NHKがドラマにしたんだろうと、視聴していない私も感じました。ついでながら、原作小説を読み始める前にNHKのサイトにある人物相関図を見ておけば、ひょっとしたら、理解が早い可能性があります。
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