櫻田智也『失われた貌』(新潮社)を読みました。
著者は、ミステリ作家であり、私は昆虫オタクで一種とぼけた雰囲気を持つ探偵役の魞沢泉を主人公とする短編集を3冊、すなわち、『サーチライトと誘蛾灯』、『蝉かえる』、『六色の蛹』をすべて読んでいます。今まで読んだのは短編ばかりでしたが、本書は著者初の長編だと思います。
まず、あらすじを簡単に取りまとめます。主人公はJ県警媛上警察署の刑事である日野幸彦です。アラフォーの係長であり、部下の入江文乃とペアを組んでいます。ストーリーは、山奥で身元不明の男性死体が発見されたところから始まります。身元を簡単には特定されないように、だと思うのですが、死体は顔を潰され、歯を抜かれ、手首から先を切り落とされ、髪の毛も切られていました。このあたりが本書のタイトルの背景です。
その後、隣のB県のアパートから管理人の変死体が見つかったことが知らされます。その死体が発見された部屋の住人である八木が行方不明となっており、発見された死体と身体的特徴が一致していることが判明します。
他方で、媛上警察署に小学生の少年がやって来て、死体は10年前に行方不明となり、失踪宣告を受けた父親ではないかといい出します。はい、何分ミステリですし出し惜しみをして、あらすじはこのくらいで止めておきます。
出版社による本書の宣伝文句として「伏線回収」と「どんでん返し」がキーワードになっています。ただ、ミステリとしては年間トップ5くらいならともかく、ミステリとしてのプロットがピカピカの1番というわけでもなさそうな気がします。2県の警察による捜査の主導権争いも取り立ててめずらしいというわけでもありませんし、そもそも、DNA鑑定も十分に発達した現在では身元の特定に加えて、血縁関係まで明らかになる可能性が高いわけですから、顔を潰す意味もそれほど有効ではない気もします。
ですので、というわけではありませんが、むしろ、ミステリのプロットに加えて、ミステリを離れた単なる小説としても十分に力作であってクオリティ高く、家庭や警察署での主人公のややくたびれた動作や会話、小学生の意気込み、空に見えるお月さんの描写、失礼ながら田舎にしては小洒落たバーでの会話やシーン、などなど、細かなディテールを私は評価したい気もします。その意味で、総合的な完成度は高い気がしますし、ミステリとしても十分にオススメです。
最後に、ご参考まで、本書のスピンオフとして「断指 J県警媛上署捜査係」が出版社のサイトで3月末日までの期間限定で一般公開されています。タイトル通り、指を切断された死体の発見から始まるミステリです。スピンオフ作品ですので、主人公は媛上署捜査係の日野と入江です。そのうちに、どこかのアンソロジーに収録されるかもしれません。
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